新潟県十日町市で育まれるブランド枝豆「つまりちゃまめ」。全国えだまめ選手権で最高金賞を2度受賞したこの茶豆から、5年にわたる試作を経て誕生したのが「つまりちゃまめお味噌」です。雪深い土地だからこそ育まれるおいしさと、その価値を未来へ伝えようとする柳農産の挑戦を伺いました。
雪国・十日町だから育つブランド枝豆「つまりちゃまめ」

新潟県十日町市にある柳農産は、ブランド枝豆「つまりちゃまめ」を育てる農家です。創業は18年前、代表の柳恵一さんが長年勤めた会社を退職し、「第二の人生は農業をやりたい」と枝豆づくりを始めたことがきっかけでした。当初は小さな作業小屋からスタートし、収穫時期をずらすため5品種の枝豆を栽培していましたが、現在は品質を追求するため2品種に絞っています。
高齢化などで農業をやめる人が増え、その畑を引き継いできた結果、今では東京ドーム約14個分(約70ha)もの広大な畑で茶豆を育てています。圃場管理ソフトを活用し、生育や施肥をデータで管理。畑で働く正社員約10人に加え、収穫期には地域のお母さんたちが選別作業を支えています。
この地域は、冬になると3メートルもの雪が積もる豪雪地帯。一見すると農業には厳しい環境ですが、柳さんは「雪があるからこそ、おいしい枝豆が育つ」と話します。半年近く畑は雪に覆われ、その間、土はゆっくりと休息します。雪の下では微生物が活発に活動を続け、雪解け水が土にたっぷりと染み込み、昼夜の寒暖差とともに茶豆の甘みやうま味を育んでいきます。
柳農産では毎年土壌検査を実施し、不足する成分だけを補う施肥設計も行っています。自然の力と科学的な土づくり、その両方を大切にして育てられた「つまりちゃまめ」は、全国えだまめ選手権で最高金賞を2度受賞。甘みとうま味の濃さが高く評価され、日本一のブランド枝豆として知られるようになりました。
農家からブランドへ。チームでつくり上げた「つまりちゃまめ」

現在、農場を中心となって切り盛りしているのは、息子の柳大輔さん。実は以前は公務員として働いていましたが、5年前に40歳で退職し家業へ入りました。
「おいしい枝豆を作るだけでは、その価値は伝わらない」そう考えた柳さんは、「全国えだまめ選手権」への挑戦をきっかけに、本格的なブランドづくりへ踏み出します。
転機となったのが、「にいがた産業創造機構」が実施する商品デザイン相談や専門家派遣事業でした。クリエイティブディレクターの堅田佳一さんから約1年間、毎月マンツーマンで経営やブランドづくりについて学び、その流れでデザイン制作も依頼することになったそうです。
パッケージやWebサイト、写真、コピーライティングまで、それぞれの分野で活躍するクリエイターがチームを結成。パッケージに描かれた印象的な茶豆のイラストは、伊勢丹の広告などでも知られるイラストレーター・牧野伊三夫さんによるものです。
ブランド枝豆から生まれた「つまりちゃまめお味噌」

柳農産では、生の枝豆だけでなく、冷凍茶豆や加工品づくりにも取り組んでいます。その代表作が「つまりちゃまめお味噌」です。
ここでひとつ知っておきたいのが、味噌に使われている茶豆のこと。普段私たちが枝豆として食べているのは、大豆がまだ若く、さやが青いうちに収穫したものです。「つまりちゃまめお味噌」では、枝豆として若採りした茶豆をそのまま味噌にするのではなく、収穫せずに完熟するまで育て、大豆として収穫した茶豆を原料にしています。
実は茶豆で味噌づくりに挑戦するのは、お父さまの代にも一度ありました。しかし、茶豆の「目」の部分が残るなどの課題があり、商品化には至らなかったそうです。それでも柳さんには、「枝豆としてこれだけおいしい茶豆なら、完熟させた大豆もきっとおいしいはず」という確信がありました。
一般的な白大豆とは異なる茶豆を原料にすることで、他にはない味噌ができるのではないか。その思いから試作を重ね、完成までに5年を費やしました。
製造を依頼したのは、新潟県南魚沼市の木津醸造所。魚沼産コシヒカリ100%の米麹と完熟させて収穫した茶豆を使い、毎年1月に仕込み、約11か月かけて天然醸造で熟成させています。仕込みは木津醸造所が担いますが、柳さん自身も作業に参加し、味噌づくりを学び続けています。
完成した「つまりちゃまめお味噌」は、無添加で塩分約9%。茶豆ならではの甘みとうま味を生かした、まろやかで奥深い味わいが特徴です。6月に新潟県内の百貨店で開催した試食販売会では、持参した36個が完売。「茶豆」「無添加」「塩分約9%」という特徴への反響も大きく、手応えを感じたといいます。
味噌のプロも驚いた、茶豆が持つ本来のおいしさ

初めて茶豆の大豆で味噌づくりに挑んだ木津醸造所も、その素材の力に驚いたといいます。「茶豆の味を逃がさないため、一般的な煮る方法ではなく圧力釜で蒸しました。蒸し上がった茶豆(大豆)を食べた瞬間、その甘みとうま味に驚きました。ビールのおつまみにしたくなるほどのおいしさでした」と、木津さん。
完熟させた茶豆の大豆そのものが持つ甘みやうま味は、発酵・熟成を経ることでさらに深まり、個性豊かな味噌へと育っていきます。調味料をたくさん加える料理よりも、味噌そのものを楽しめるシンプルな料理がおすすめだそうです。
雪国の恵みを、もっと多くの人へ

現在、柳農産ではECサイトや関東の量販店を中心に、最盛期には1日約2トンもの枝豆を出荷しています。4月下旬から順次植え付けを行い、7月下旬から9月下旬まで収穫時期をずらしながら、鮮度の良い茶豆を届けています。収穫期を過ぎても旬のおいしさを味わってもらえるよう、冷凍商品の販売にも力を入れています。
昨年は雨がほとんど降らなかったため、枝豆の背丈が十分に伸びず、収量も大きく減少しました。「自然と向き合う仕事なので、その年ごとの天候を受け入れながら、できることを積み重ねていくしかありません」そう話す柳さんですが、その表情はとても前向きでした。
雪国の自然、土づくりへのこだわり、発酵の技、そして多くの人との出会いが詰まった「つまりちゃまめお味噌」。今後は製造量を増やし、より多くの人に届けていきたいと考えているそうです。この時期だけ味わえる採れたての「つまりちゃまめ」はもちろん、冷凍茶豆や「つまりちゃまめお味噌」を通して、一年を通じて十日町のおいしさを楽しむことができます。
ちなみに柳さんのおすすめは、塩ゆでした茶豆(大豆)にオリーブオイルとポン酢をかけること。「止まらなくなるくらいおいしいですよ」そう笑顔で話す姿からも、茶豆への愛情と自信が伝わってきました。
文/秋山昭代
