【味噌小噺】オレオレ詐欺と母さんの味噌汁

岡山に「トマト銀行」というのがある。なんでも、トマトの瑞々しさや新鮮で明るい健康的なイメージを銀行のイメージにしているそう。しかも、ももたろう支店 に、きびだんご定期預金なんて、ほんわかしているから、ついお金を預けたくなってしまうと評判。トマト銀行は、ネーミング大賞も取ったらしい。

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もう一つ、おもしろい名前を付けた銀行がある。その名も「味噌銀行」!なんでも、支店長のお母さんは毎年、家で味噌を仕込んでいたらしく、支店長は毎朝、母の味噌汁で育った。母の味噌汁の具は決まって豆腐とわかめとねぎ。365日毎日同じ味噌汁だったという。
息子:母さん、たまには違う味噌汁にしてよ。
母:今日のは、昨日と違うよ。(どう見ても、お椀の中身は豆腐とわかめとネギだ)
息子:母さんも、とうとう呆けたか。いつもと同じ味噌汁じゃないか。(母怒って言い返す)
母:今日のわかめは鳴門産。いつもは三陸わかめ。ねぎも、いつもは下仁田ねぎだけど、今日は特別に九条ねぎ。おまえ、味がわからないのかい。(母に突っ込みを入れたかったが、ぐっと我慢して)
息子:それじゃあ、豆腐はどこ産なんだ?
母:今日の豆腐は、イオンの豆腐。いつもはユニーの豆腐よ。味が違うでしょう?(真顔で答える)
息子:う~ん、確かに違う。
母:おまえも、違いがわかるオトコになったね。母さん、うれしいわ。(ぼくは、そんな母をいとおしく思えたのだった)

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最愛の母は、桜の花が咲く頃、あの世に旅立った。母が逝ったその日から、毎朝の味噌汁は消えた。(豆腐とわかめとねぎの味噌汁、どこでもある普通の味噌汁…。今度食べられるのは、ぼくがあの世に行ったときか…)山の彼方に母が笑っていた。

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10年後、息子は銀行の支店長になった。そんな彼、仕事で、あることに悩んでいた。ほかでもない。巷で問題になっている「オレオレ詐欺」のこと。ここ数年、あちこちの銀行で事件が起き、彼の支店でも今年に入って2件も事件が起きていた。目の前で犯罪が起きているというのに、対処できない悔しさともどかしさを感じていた。大手銀行のCМには勝てないため業績もふるわない。店頭スタッフやガードマンを増やせば人件費がかかるし、ちょっとでも怪しそうな人が来ると、ついヘンな目で見てしまう。お客様をそんな目で見れば、当然スタッフも店の空気も悪くなる…。

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そんなある日、年老いたおばあさんが来店した。支店長の席からお客様の姿がよく見える。背中を丸くしてよぼよぼ歩く姿が、なんとなく母に似ているなぁと、ふと目を留めた。おばあさん:息子から、病気で寝込んでいるので、お金を少し振り込んでと電話があってね。悪いけど、10万円を送金してくれませんかね。(その声に一瞬、警戒する窓口の女性。私も思わず目を向けた)さらに、そのおばあさんは、手に持っていた袋を窓口に差し出した。

おばあさん:すみませんが、これも送ってもらえませんか?
窓口の女性:大変申し訳ありませんが、当店ではお荷物は送れません。荷物なら郵便局かコンビニへ行ってください。
おばあさん:ここでは送れないの?(がっかりした様子)見ると、どこかで買ってきたのだろうか、その袋は半分破れていて、とてもそのまま送れる状態ではなかった。ぼくは席を立ち、「お客様、すぐに送れるように、荷物を梱包してさしあげましょう」と奥から空箱を持っていった。おばあさんはほっとした様子で、「息子が喜びます。本当にどうもありがとう。助かります」と、深々と頭を下げた。支店長は、箱に入れようとした袋の中身を見て驚いた。破れかかった袋から見えたのは、あろうことか、味噌と豆腐とわかめとねぎだった。おばあさんは病気の息子が早く元気になるようにと、味噌と食材を買ってきたのだ。それもスーパーやコンビニで買えるものばかり。それでも、母は息子に送りたいのだろう。そんな出来事があった夜、支店長は、一人居酒屋で飲みながら考えた。それにしても、味噌と豆腐とわかめとねぎとはね…。なんだか母さんが、ぼくに何かを伝えてくれているとしか思えない。支店長は決断した。それは……。

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翌日、社内で社名変更を発表した。支店長:皆さん、本日は大事な報告があります。当行の名前を「味噌銀行」に変更します。その言葉に店員たち、一斉に「味噌銀行!?」と叫んだ。
社員A:支店長、今日はエープリルフールではありませんよ。
社員B:トマト銀行があるんだから味噌銀行だって、あるかもね。
社員C:いや、おかしいよ、支店長。もうこの銀行も終わりかも。
社員D:味噌銀行、いいと思うな。
わかめ定期貯金に豆腐保険…笑えるしウケるよ。
支店長:毎月30日の「みその日」には、定期預金をしてくれた方に、味噌をプレゼントしよう。味噌は手前味噌がいい。みんなで味噌を仕込むんだ。

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以来、味噌銀行では毎日お客様に味噌汁をふるまっている。店内にはぷ~んといい匂いが漂い、入店したお客様をやさしく包み込んでいた。どんな味噌汁なのかって? それはもちろん、毎日同じ、豆腐とわかめとねぎの味噌汁に決まっている。そこが、ミソ!
お客様と支店長のやりとりがまたおもしろい。
お客様:支店長さん、今日はどこのわかめ?
支店長:はい、今日は、北海道産のわかめです。
お客様:ねぎは?
支店長:今日は、博多ねぎです。
お客様:ふっ、ふっ、ふっ、豆腐は?
全員:大笑い(店内のあちこちで、笑い声が聞こえてくる)

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さらに、味噌銀行に奇跡が起きた。オレオレ詐欺がゼロになったのだ。おいしい味噌汁のおかげで、味噌銀行は地域住民たちのたまり場になった。すると、たくさんの目があることがオレオレ詐欺を未然に防ぎ、オレオレ詐欺に狙われそうなおばあさんたちも、そのまちで安心して暮らせるようになったのだ。おまけに「味噌が、健康を救うと同時に、銀行も救った! 」と、銀行にはテレビや新聞などマスコミ取材がひっきりなしに。自然と味噌銀行にはお客様が集まり、信用もうなぎ上りで商売繁盛!
支店長:みんな、母さんの味噌汁のおかげだよ!

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続きがある。味噌銀行の話が広がると、日本各地の銀行で、その土地ならではのご当地味噌汁をふるまうようになった。オレオレ詐欺も人間だ。お母さんもいれば、ふるさともある。味噌汁の香りにわが母を思い出し、銀行で悪事を働くことはなくなった。こうして日本のオレオレ詐欺事件は、お母さんの味噌汁のおかげですっかり解決。詐欺師たちはみな、「もう金輪際(こんりんざい)『ウソ』をつくのはやめて『ミソ』にします」そう言って、味噌にハマったそうである。

おあとがよろしいようで。

作・味噌小町

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