日本輸入チーズ協会会長・大塚義幸さんに聞く「味噌とチーズのマリアージュ

日本の伝統食品である「味噌」は大豆を発酵させたもの。「チーズ」は動物の乳を発酵させたものと、原料の違いはあるものの、多くの共通した健康機能を持つことで知られています。そして、この両者を食べ合わせると、一瞬にして「味噌とチーズのマリアージュ」を実感することができます。

味噌の魅力にハマり、味噌の素晴らしさを伝えているミソガール藤本智子が、チェスコ株式会社取締役会長であり、日本輸入チーズ協会会長・大塚義幸さんに聞いたチーズの魅力。味噌とチーズの違い、そして共通点から見えてきた「味噌とチーズのいい関係」とは…。「マリアージュ」とは仏語で「結婚」という意味で、互いに香りや味を高め合う最高に相性のいい組み合わせのこと。和と洋の発酵食品の長であり、長い年月の中で自然と人々の暮らしとともに生まれ、また家庭の中で母から娘へと伝承されてきた「味噌とチーズ」。素晴らしいマリアージュに乾杯!

藤本 一昨年の「チーズの日」(11月11日)、「チーズフェスタ2012」にミソガールをお招きいただき、お世話になりました。あの日から私の中に 「チーズ」がしっかりとインプットされ、「味噌とチーズのマリアージュ」を実感しています。

大塚 うれしいなぁ。あのときはみそ健康づくり委員会様にご協賛いただき、ミソガールさんには会場でチーズ入り味噌汁(名づけて「味噌とチーズのマリアージュ」)の無料試飲を行いましたね。また、私が書いた「味チーとの遭遇」というシナリオをもとに、一緒に素敵なステージをつくり上げていただき、ありがとうございました。

藤本 味噌が大好きなだけで、とても専門家とはいえない私を、あのような舞台に起用してくださいました。セリフも棒読みで演技どころではありませんでしたが、大塚監督をはじめ共演者の方々のあたたかいサポートでなんとかお役目を果たさせていただけてよかったです。

大塚 ミソガールさんがいたから「チーズボーイ」の発想が生まれ、一見難しそうな機能性についてもわかりやすく伝えることができました。つくづく味噌もチーズも、素晴らしい「発酵食品」だと思います。

藤本 チーズは嗜好品なので、チーズ好きな方はこだわりやうんちくを持っていらっしゃる。その点味噌は身近で当たり前なだけに、意外にその良さに気づいていない人が多い。それがもったいないと思うんです。

大塚 たくさんチーズファンがいる一方で、チーズを食べたら太るとか、血圧が上がるとか、そんな誤解も多いのです。

藤本 そこを詳しくお聞きしたいです。

大塚 チーズの種類によっては、塩分が高く、ナトリウムが多いのは事実。ナトリウムが血圧上昇の原因であることも医学的にわかっています。けれどもチーズに含まれているカリウムとカルシウムには、ナトリウムを体外に排出させる働きがあります。さらにチーズに含まれているペプチドにも血圧を下げる働きがあるので、血圧が上がるというのは大きな誤解です。

藤本 塩分が高い、食べると血圧が上がるという誤解があるのは、味噌も同じ。そもそも味噌汁1杯の塩分は1.2〜1.4g程度と意外に少ないうえ、最近の研究では、高血圧の予防効果があることがわかっています。また同じ食塩量でも、味噌の塩分には30%の減塩効果があるそうです。

大塚 ほかにもコレステロールの抑制、肥満防止、がん・心臓病・糖尿病予防など、チーズと味噌に共通する保健機能がたくさんあります。また、美肌やアンチエイジングにも、効果的な成分が含まれています。

藤本 チーズや味噌を食べてお肌がすべすべになれば、女性はうれしいですね。また味噌汁を飲んでいる人のほうが、乳がんにかかりにくいという研究データもあります。

大塚 硬いチーズを食べると、咀嚼中に唾液が多く分泌され、抗菌物質を含む唾液が虫歯菌の生育(増殖)を抑制します。虫歯菌がつくる酸によって歯のエナメル質が侵食され、虫歯はできるのですが、チーズはこれを中和して歯を守るのです。チーズを食べると虫歯になりにくいということは、ヨーロッパでは広く知られ、その効果はキシリトールと同じ水準だと、WHO(世界保健機構)で認定されています。

藤本 チーズが虫歯予防に効くなんて、思ってもみませんでした。

大塚 でも私が考える最大の効果とは、チーズを食べると「幸せな気持ち」になれるということです。今注目されている物質に、セロトニンという脳内神経伝達物資があります。これは、沈んだ気持ちを明るくしたり、穏やかな幸せ感をつくり出したりします。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸からできますが、このトリプトファンという物質が、チーズや肉・赤みの魚などに含まれているのです。

藤本 とても興味深いお話ですね。成分は異なるのかもしれませんが、同じように、ごはんと味噌汁もまた、私たち日本人を「幸せな気持ち」にしてくれるものだと思います。

大塚 ええ。私もチーズばかり食べているのではなく、ごはんと味噌汁も大好きです。味噌汁を飲むとほっとして癒される…なんともいえず幸せな気持ちになりますね。

藤本 味噌は、約1300年前に日本で生まれ、その後、和食の世界で磨かれ、さらには家庭の中でお母さんから娘へ、娘から孫へと代々受け継がれてきた食文化です。それがずっと人々に愛され、食べられている要因だと思っています。

大塚 世界に目を広げれば、チーズは最も古くからある食品の一つです。およそ6000年前に西アジアに誕生し、その後、西のルートはヨーロッパへ、東のルートではインド・モンゴルへと、いくつかのルートで時間をかけて世界に広がっていきました。チーズも家庭の主婦たちによって、代々受け継がれていったものです。日本に入ってきたのは、偶然にも味噌と同じ約1300年前のこと。チーズがこれほど長く、しかも国境や宗教を越えて愛されているのは、「命」を奪うものではないということ。それでいて、たんぱく質、脂肪、ミネラル、ビタミンなどがバランスよく含まれた完全栄養食品であるということ。これは、私たち人間にとっての「ごほうび」ではないかと思えるほどです。

藤本 山海の島国、五穀豊穣の日本で、味噌は、唯一無二の完全栄養食品といわれています。

大塚 仙台味噌、信州味噌、九州麦味噌…と味噌にも種類があるように、チーズにもカマンベール、ブリー、ゴーダ…とさまざまな種類があり、その土地の気候や風土の中で育まれてきました。つまり、世界中に味や性質の異なるチーズがあり、それを知れば知るほど楽しくなって深みにはまります。

藤本 確かに「チーズフェスタ」のお客様を見ていて思いました。皆さんワインを傾け、チーズを一つひとつ愛おしみながら口に運び、じっくりと味わっていましたね。レストランでもないのに、イベント会場から全然立ち去ろうとしない。「入れ替え制」のルールがなければ、ずっとチーズのことを語り続けていそうな方たちばかりでしたね。

大塚 チーズファンが多いのはありがたいことです。私は北海道に生まれ、チーズを身近に感じながら育ち、この世界に入って40年。いまだにチーズを極めることはできないし、現在もなおその魅力に惹かれ続けています。

藤本 会長の「チーズ愛」は半端ではありませんね。私もどんどん大塚チーズワールドへ引き込まれていっている感じがします。このようにチーズに関心や知識を持ったら、きっと「いつものチーズ」が何倍もおいしく感じられるのではないでしょうか。先ほどからもう、チーズが食べたくて食べたくてたまりません!

大塚 人間の味覚は脳を通して感じるものですから、味噌も同じでしょうが、つくり手の思いや地域性、歴史的背景などを知ることで、おいしい以上に楽しくなってくる。私も楽しいから、今も世界中の「チーズ」と出会う旅を続けています。

藤本 味噌も、日本中にたくさんの種類があるにもかかわらず、意外に知られていないんです。私はもっともっと味噌のことを勉強し、たくさんの人に伝えたくて「味噌活」を続けています。これからは「味噌とチーズのマリアージュ」のテーマも持って、日本中、いえ私も世界に向けて、発信していきたいと 思います!

大塚 素晴らしいことですね。私も、これから味噌にもっとアンテナを立てて、最高のマリアージュを探してみようと思います。

藤本 大塚会長にそんな風に言っていただけたら、味噌も光栄です。最後に、若い女性たちに何かおすすめのメニューがあれば、教えていただけますか。

大塚 女性はヘルシーなものを好まれから、生野菜にチーズと味噌を混ぜたディップや、味噌漬けのチーズがいいのかな。完全栄養食品といわれるチーズですが、食物繊維とビタミンCが欠けています。ですからパンや野菜、フルーツを添えることで、おいしいだけでなく、すべての栄養を摂取することができ、パーフェクトな食事になるのです。味噌とチーズのマリアージュを食べるなら、東京・神田にある味噌とチーズの専門店「鍛冶二丁」がおすすめです。

藤本 チーズが洋食に、味噌が和食に使われるのはフツーですが、味噌はフランス料理やイタリア料理にも多く使われています。チーズを使った和食メニューもいっぱいありますよね。

大塚 最高の発酵食品同士が一緒になったら、もう大変なこと。それこそ「味チーとの遭遇」だ。可能性がどんどん広がりますね。

藤本 チーズと味噌が出会ったら、間違いなくワクワクドキドキ。私もこれまで以上に「味噌活」が楽しくなってきました。今日は素晴らしいお話を、どうもありがとうございました!

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