「特定非営利活動法人アーシャ=アジアの農民と歩む会」は、アジアの農民の自立と持続可能な社会を目指し、さまざまな支援活動を行っている。その一環として、インドに「アラハバード有機農業組合」を創設し、現地の有機原料を使用した味噌を製造販売している。副代表の三浦照男さんに話を聞いた。(聞き手 / 藤本智子)
現在のお仕事に就かれたきっかけは?
19 歳のとき、「アジアの農村で仕事をしたい」という友人の話を聞いて関心を持ったのがきっかけです。その後、農業や農業開発について学び、25 歳で NGO の農業プロジェクトスタッフとしてバングラデシュへ。現地では文化や宗教、価値観の違いに戸惑いながらも、異文化同士だからこそお互いに成長できることがあると感じました。そして、アジアの農業の可能性を実感しました。以来、主にアジア諸国で、農業開発や母子保健の改善などをテーマに活動しています。
「アラハバード有機農業組合」とは?
インド北東部にあるアラハバードは、インドの首都デリーから電車で約 9 時間ほどの地にあります。同組合は、サム・ヒギンボトム農工科学大学、アーシャ=アジアの農民と歩む会、現地の農民が、JICA(国際協力機構)の支援を受けて 2004 年に共同で創設しました。有機農業の促進、無添加の加工品の製造販売を軸にし、小規模農家の自立と農村の持続可能な発展、インドに滞在する日本人の食卓を豊かにすることを目指して活動しています。現在、農家100世帯ほどと連携し、私たち日本人の専門家が指導とサポートにあたり、日本米やモリンガの生産、味噌や醤油などの加工品を製造しています。
どんな味噌をつくっていますか?
ヒマラヤ山脈の麓でとれた有機大豆やお米、ヒマラヤ岩塩を使用し、無添加の味噌を生産しています。麹づくりは手作業で手間暇をかけてつくっています。また、インドで多く生産されているひよこ豆を使った味噌もあり、爽やかな風味で甘みがありインド人にも好評です。
味噌製造を始めた当初、インドではまだ味噌製造の事例がなく、手探りで模索しました。夏場は 40 度以上もざらで、温度管理の大変さや現地スタッフとのコミュニケーションの難しさ、電気や水道の設備トラブルなど、日本では考えられないようなさまざまな壁もありました。しかし現在は安定した味噌製造の体制を構築でき、味噌は今や看板商品の一つとなっています。インド在住の日本人やレストランなどを中心に、多くの方に愛用いただいています。
インドの味噌事情について教えてください。
インドでは、味噌はごく一部でしか手に入れることができず、ほとんどのインド人が、まだ味噌を知らないと思います。ただ、日本食が健康食であることは、上流中流層の間では知られ始めていて、日本食を提供するレストランやホテルが都会を中心に増えています。ヘルシーなイメージがあるインドですが、中流層は脂っこいカレー、甘いお菓子やお茶を多く摂取するため、生活習慣病が急増し、食生活の改善が急務となっています。栄養価の高い味噌汁の普及の可能性も大いにあると思います。
今後の展開は?
アジア諸国は急激な発展を遂げていますが、まだまだ農村における貧富の格差、農村女性や弱者の人権無視、自然環境の悪化等問題は山積みです。これからも日本人とインド人が協力して行う新しいビジネス、新しい農村開発のモデルを構築していきたいと考えており、その一つに味噌があります。日本食を扱う食品流通業者等とも連携し、インド人のシェフや一般消費者向けの味噌講座や情報発信を行っていきたいと考えています。また、インド人に親しみやすい味にアレンジした、ガーリック味噌、マサラ味噌、辛子味噌ほか、味噌ドレッシングや味噌ソースの開発も検討しています。