マクロビオティック料理研究家・中島デコさん流「心地よい暮らし〜育てるみそ~」

「マクロビオティック」とは、穀物や野菜、海藻などを中心とする日本の伝統食をベースとした食事を摂ることにより、自然と調和をとりながら、健康な生活を送ろうという食事スタイルのこと。マクロビオティック料理研究家として、料理本やエッセイの出版、講演活動など国内外をステージに活躍する、中島デコさん流の心地よい暮らし方、みその魅力について伺いました。

マクロビオティックとは何ですか?

マクロビオティックとは、桜沢如一氏(1893年~1966年)が広めた考え方で、穀物や野菜、海藻などを中心とする食事を摂ることにより、自然と調和をとりながら、健康な暮らしを実現しようというもの。何も特別なものではなく、日本の伝統食をベースとした、日本人が昔から培ってきた食生活の智恵を活用したものです。生活習慣病をはじめとする現代病やダイエットにも有効な食事法として、ハリウッドスターやスーパーモデルも実践するなど、世界中で注目されています。マクロビオティックでは、「身土不二(人間も植物も生まれた環境と一体、暮らす土地の旬のものを食べること)」と、「一物全体(穀物なら精白していない玄米、野菜なら皮も無駄にせず、自然の恵を丸ごといただく)」という2つの原則があります。

マクロビに興味を持ったきっかけは?

高校生の時にアルバイト先で、マクロビオティックの食事法を実践されている方に出会い、「玄米菜食」の素晴らしさを教えていたただく機会に恵まれました。しかし、当時は「いつかやってみよう」くらいにしか思わず、しばらくは、料理をつくらないどころか、お酒やタバコも日常でした。本格的にマクロビオティックを始めたのは、24歳で結婚後のことです。母になるのが幼い頃からの夢だった私は、健康な子どもを産むには食事を変えるしかないと。それまでの生活習慣や食生活を根本から見直し、自然食品店で働きながら本格的にマクロビオティックの勉強を始めました。待望の妊娠は2年後のことでした。私の場合、変な先入観がなかったのが幸い、何もかもが新鮮で、マクロビオティックを自然な形で取り入れることができたので、楽しくて仕方がありませんでした。5人の子宝に恵まれ、人間の体は自分が食べたものでできていることを実感。マクロビオティックを知ってよかった、と心から思っています。

ブラウンズフィールドとはどんな場所ですか?

自然に囲まれた暮らしをすることを目的に、1999年に東京からここへ引越してきましたが、現在は、私たちの住まいであると同時に、カフェや宿泊、イベントなどを行う場となっています。2012年に、古民家を改築した「渋モダン」な宿「慈慈の邸(じじのいえ)」をオープンしてからは、昔ながらの知恵をヒントに、豊かな食を中心とした心地よい暮らしを提案。無肥料無農薬でお米や野菜を育て、みそや醤油などの調味料もすべて手づくりし、玄米菜食を中心をした料理を提供しています。

つくっている作物はお米、野菜、芋類、豆類など40種類以上。お米は年間約2トンを収穫しています。自然を大切にした循環型生活が基本。一見ゴミのようなものでも、ちょっとした工夫で用を成す。雨水を貯めて農具や手を洗ったり、汚水を出さないために、食器洗い洗剤やシャンプーにも気を配っています。一人ひとりがちょっと気をつけるだけのことです。ここでは、人と自然、微生物を含むすべての生命との共生がテーマ。世界中から自然と繋がった暮らしをしたいと考える人が集い、巣立っていっています。ここでの生活が、食を見直したり、生きることの意味を考えるきっかけになればいいなと思っています。

マクロビの楽しみ方を教えてください

肉や魚がなくても、工夫すればいろいろなものが食べられるし、スイーツだってつくれます。それに、新鮮なごはんや野菜は何よりの贅沢。よけいな味付けをしなくても、そのままでごちそうです。それに意外かもしれませんが、私は、マクロビオティックがすべてだとか、玄米菜食でなくてはいけないとか、言っているわけではありません。それを食べることじたいが目的になってしまったら大間違いだし無理強いはダメ。大切なのは、「何のために食べるのか」ということ。食事はコミュニケーションの手段です。私は毎朝、おなかが空いていなくても、家族やスタッフと一緒に、みそ汁だけでも飲むようにしています。そこで、みんなの体調とか、心の様子を察して、何かあればケアするようにしています。

ここでの暮らしはどうですか?

都会に住んで自然食を求めようとすると、遠くから運ばれてきた(新鮮じゃない)ものを高いお金を出して買っていて、そのために一生懸命働くのはおかしいと思うようになりました。水や空気のきれいなところで、子どもたちに思いきり土に触れさせたい、種を蒔く生活がしたい…その思いが強くなり、ここへ来ました。東京生まれ、東京育ちの私。大自然の中での生活は慣れないことも多く、サプライズの連続でした。でも毎日子どもの世話と、カフェや宿泊施設の運営などをしながら、あっという間に16年。たくさんの出会いと発見がありました。お米に大豆、みそに醤油、さまざまな野菜もそうですが、育てる手間はかかっても、新鮮で安全なものをいただく喜びは何物にも代えられません。時には、にわとりを殺して、「命をいただくこと」を、子どもたちに教えます。

子育て中のお母さん、ママ未満の女性へ

女性には「子どもを産む」という、素晴らしい力があるのですから、どんどん子どもを産んでほしいし、誇りを持って子育てをしてほしい。お母さんが一生懸命に生きていれば、子どもは必ずそれを見て、自分もがんばるようになるはずです。その中で、一番気をつけてほしいのは食事です。食べものは、子どもの「体」だけでなく、「心」をつくるものです。忙しいとつい後回しにしてしまいがちですが、ちょっと意識を変えるだけでも違います。玄米菜食で育ったお子さんと、加工食品やファーストフードで育ったお子さんでは、はっきりと違いがわかります。白砂糖や添加物が入ったものは極力控え、できるだけ手づくりのものを食べさせてほしい。無理せず、できる範囲で長続きさせることが大事。安心してください、自然の流れに身を任せていれば大丈夫です。

デコさんが思うみその魅力とは?

スタッフが口を揃えて、「これがないとブラウンズフィールドの味が出ないよね」と言うのが、自家製みそ&醤油。手前味噌ですが本当においしくて、ストックが少なくなると、みんな大慌てなんです。毎年、冬になると、秋に収穫した大豆と米を使って数百キロのみそを仕込みます。近くに麹をつくれる施設があり、米を持ち込んで麹をつくります。だから、ほかでは絶対に食べられない味なんです。みそは、大豆を茹でて麹と塩を混ぜて容器に入れれば、あとは微生物たちに任せるだけ。こんなに楽しくて、簡単なものはありません! 今年のはじめには、ハワイでみそ仕込み教室も行いました。「手前味噌」とはよく言ったもので、わが子と一緒で、自分でつくると、たとえ不出来でも愛おしいもの。みそだけでなく、納豆や醤油なども全部手づくりですが、「育てる」楽しみが一番の魅力です。1年間しっかり熟成させたみそは、家族やスタッフ、カフェ、宿の食事に大切に使います。みそ汁をつくっていると、特に命を大切にありがたくいただくという感覚を覚えます。子どもたちも自分でつくるとよく飲んでくれます。

みそは自然の恵みそのもので、なくてはならないもの。発酵食品のおかげで、日本人は長寿。発酵食品バンザイ!みそまるは、とてもいいアイデアですね。子どもが喜びそうだし、なんといっても手づくりのあたたかさがいいですね。今、ニューヨークでもマクロビオティックが流行っていて、気づいた人から始めています。みそまるは、きっと売れますよ。みそは次世代に残すべきもの。一緒にがんばりましょう。「慈慈の邸(じじのいえ)」で、みそまるパーティーやミソガール合宿もいいわね。婚活パーティーにしましょうか…(笑)。

伝えたいこと、夢を教えてください

自然の摂理に合った地元のものや旬のもの、身体を温めるもの、エネルギーのあるものを選んでいけば、日本人はどんどん元気になれるはずです。食べ物が自分の血となり体になる。ブラウンズフィールドでは、農業体験やヨガ、断食、ベビーマッサージ、産後ケアなど、さまざまなイベントやプロジェクトに取り組んできましたが、本来の食や自然と調和した暮らしを体験できる機会を、もっと増やしていこうと考えています。今、書籍を制作中です。これまでのレシピ本やエッセイとは違って、私がここを巣立っていった人をインタビューしていますので、思いがたっぷり。楽しい本ができそうなので、ぜひ読んでくださいね。

Deco Nakajima is a macrobiotic cooking expert and author who runs Brown’s Field, an organic farm, cafe, and accommodations that focuses on a lifestyle in harmony with nature. She makes miso every winter using homegrown ingredients.

関連記事

  1. 岩城こよみさん「古くから伝わるおふくろの味・ウチミソの力」

  2. お味噌汁復活委員会・平山由香さん「味噌汁を守り繋げていく」

  3. 酒井雅敏さん「味噌と大塚の町を愛する歌う味噌屋の若旦那」

  4. 広島大学名誉教授・渡邊敦光先生「味噌は日本古来の最強サプリ」

  5. 【寄稿】味噌汁と共に

  6. みそ汁はおかずです

    料理研究家・瀬尾幸子さん「みそ汁ほど万能なものはない」