「みそ汁」から生活を変えていこうと「みそ汁の日」を提唱する、長崎県佐世保市立広田小学校の福田泰三先生。授業以前に、子どもたちの食生活を調えていくことの重要性を実感した10 年前からこの取り組みをスタート。「みそ汁の日」では、1 週間早起きをして、家族のためにみそ汁をつくることが課題となる。みそ汁をつくった小学生たちは、どのように変わっていくのでしょう。(聞き手/ ミソガール・藤本智子)
「みそ汁の日」を始めたきっかけは?
小学5 年生のクラスを受け持った時、一人ひとりは素直でよい子たちでしたが、ボーッとしたり、低体温だったり、お昼近くになるとイライラしたりする子がとても多いことに驚きました。聞いてみると、夜更しをして朝起きられず、朝ごはんも食べずに登校していました。授業に集中できる「学べる力」を育成しなければ、学力は向上しないと直感。そこで「早寝、早起き、朝ごはん」を習慣化するため、子どもが自発的に「みそ汁」をつくる取り組みとして、10 年前に「みそ汁の日」を始めました。
子どもたちにどんな変化がありましたか?
家庭科の調理実習でみそ汁づくりを習ったあと、1 週間、家族のためにみそ汁をつくることを宿題に。保護者の協力を得て、ほとんどの子どもたちが、最終日には自分で起き、みそ汁を上手につくれるようにまでなります。早起きして朝ごはんを食べると、授業の集中力と勉強意欲が格段に上がりました。これまで「○○しなさい」ばかりだったお母さんも、子どもに「おいしい、ありがとう」と言葉をかけるようになります。「ありがとう」は存在を認めてもらえることなのです。自然と子どもたちの心が安定していくのを実感しました。
印象的だったエピソードを教えてください。
いじめをしていた女子児童に「じいちゃんのためにみそ汁をつくってみない?」と投げかけ、毎日つくるようになりました。ある日、風邪をひいた祖父に「元気になってね」と梅干しみそ汁をあげたところ、おじいちゃんは涙を流して「おいしい、長生きしてよかった」とつぶやきました。その言葉を聞いて、自分が大切にされていること、いじめていた子も愛してくれる家族がいることに気づき、みんなの前で謝罪しました。友だち関係でイライラして不安だった自分が、こんなにも愛されていると知ったことで、「心の安定」を感じます。おじいちゃんのためにみそ汁をつくったら、とても喜ばれたということで、人が喜ぶことをするという自己有用感も育まれ、彼女の行動が変わっていったことに食卓の素晴らしさを感じました。
みそ汁の思い出を聞かせてください。
「おふくろの味」が一番だと実感したのは、実家を離れて暮らしていた大学時代でしょうか。帰省して食べるみそ汁の味といったらもう格別。ほんのり甘い麦みそに、わかめと豆腐が入ったみそ汁が定番。いまだに、どんなにがんばっても母の味は出せません。お母さんは偉大な存在です。
これからの夢を教えてください
暮らしの中のほんのささいな出来事が、子どもの心を育む環境を大きく変えます。みそ汁づくりはその第一歩。食を選ぶ知識や調理する力を育み、台所に立つこと自体が「生きる力」につながります。それを当たり前につけられるような世の中になるよう、これからも伝え続けていきたいと思います。