関西には「さくら味噌」という、なんとも華やかなネーミングの味噌がある。高級料亭や中華料理店などでよく使われている、知る人ぞ知る通の味噌。「赤だし」と呼ばれる味噌にカテゴライズされる。昨年秋頃から、「赤味噌」と「白味噌」のブレンドを実践する人が急増し、メーカー欠品という事態も。赤味噌の旨味と渋み、白味噌のやさしい甘みが重なり、なんとも上品な味わいで、食べれば食べるほどハマる味噌だ。
※本来「赤味噌」「白味噌」とは、原料の違いに関係なく見た目の色合いで分類していますが、本記事に関しては、「さくら味噌」をメインとしているため、赤味噌=「東海豆味噌」、白味噌=「関西白味噌」や「府中味噌」等の白甘味噌として、紹介しています。
“合わせ”ブームの火付け役は、一冊の書籍だった
自律神経研究の第一人者である、順天堂大学医学部の小林弘幸教授は、多くの患者を診てきた経験から、病気や不調は、食事や生活習慣による影響が大きいと確信。赤味噌や白味噌などを合わせた「長生きみそ汁」を一日一杯食べることが、一番の健康法と推奨する。『医者が考案した「長生きみそ汁」』は、腸内環境を整え、健康長寿を手に入れるためのエッセンスが詰まった一冊。2018年7月の発売以来、テレビや雑誌などさまざまなメディアで取り上げられ、話題沸騰。80万部を超える異例のヒットとなっている。
「赤だし」って!?
本来「赤だし」とは、「東海豆味噌」でつくった味噌汁のことを指していたが、現在は、豆味噌をベースに米味噌や調味料等を配合した「調合味噌」を指す。合わせる米味噌は、甘口~辛口まで幅広く、だし入りタイプもある。幅広いラインナップの中から好みで選ぶといい。「さくら味噌」は、「赤だし」の中では甘口に属する。白味噌に5%程度の豆味噌を加えた味噌汁は、「紅をさす」との意から「赤ざし」。豆味噌を15%に増やすと「赤がかっている」の意で「赤がち」と呼ばれる。また同量合わせると、茶道等で使われる絹布の袱紗(ふくさ)が表と裏の二枚を重ね合わせてあることから「袱紗味噌」とも呼ばれる。
さくら味噌をつくってみよう
「関西白味噌」とは、京都を中心に滋賀や大阪など関西地区でつくられている白味噌の総称。「西京味噌」が有名だ。華やかな歴史と文化が受け継がれる京都で、京料理とともに磨かれ、発展してきた。上質な米を大豆の約2倍使い、こっくりと甘口で薄塩、うっとりするほど美しい色合い…、いかにも王朝貴族好みの優雅な味噌だ。雑煮ほか、味噌漬けやスイーツの隠し味にも最適。「東海豆味噌」とは、東海エリアで食されている豆味噌の総称。地域により「八丁味噌」や「名古屋味噌」などがある。色が濃く、旨味が強いのが特徴で、加熱をしても風味が飛びにくく、煮込むことで独特の風味も生まれるため、煮込み料理の隠し味にも最適。名古屋を中心とする東海エリアでは、この豆味噌の特徴を生かし、味噌カツや味噌煮など、さまざまな料理に活用されている。おすすめは、白味噌1:赤味噌1の割合。甘味を強くしたい場合は、白味噌を増やし、深みや渋みを出したいときは、赤味噌を増やしてください。
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味噌とさくらイズム
日本の「国花」である桜と、「国菌」である「麹菌」がつくりだす「味噌」。一見、似ても似つかぬものだが、「日本が誇るべきもの」という偉大な共通点がある。そんな桜と味噌を掛け合わせた「さくら味噌」のネーミングに、とてつもなく魅了された。
花見の歴史を調べた。桜の下でごちそうを食べて宴会をする、現代と同じような花見が広まったのは江戸時代だが、桜の花を愛でる風習は、奈良時代以前からあったそうだ。また、桜には、穀物の神様が宿るとされ、神聖な存在だった。田植え前に咲く桜は、忙しい季節を前にした人々を癒し、花見は、五穀豊穣を願う大事な行事であったという。味噌にも神聖な力が宿ると古くから信じられてきたが、自家醸造が当たり前だった時代。人々は、その年の「味噌」のことも思い、桜を眺めていたのだろうか?
春の訪れを象徴する「桜」、多くの人々がその開花を待ち望んでいる。そして、別れ際の桜吹雪もまた、はかなくも美しい。人を狂わすともいわれ、不思議な力があるとされる。それほどまでに、人々に影響を与える花は他にあるだろうか。味噌も、近いところがあると感じずにはいられない。花見の時期は年に一度だが、「さくら味噌」は、年中、冷蔵庫で開花できるではないか(笑)。皆さんも、お気に入り味噌のラインナップに入れてみてはいかがでしょう。
参考文献:『47都道府県・伝統調味料百科』(発行/丸善出版、著者/成瀬宇平)、『みそ文化誌』(発行/全国味噌工業協同組合連合会)