愛知県岡崎市の名産として知られる八丁味噌から「紙」が誕生しました。味噌づくりの過程で生まれる「蓋味噌(ふたみそ)」は、食用には適さないため主に家畜の飼料として使われてきました。その副産物に新しい価値を見出し、紙として生まれ変わらせたのが「八丁味噌紙」です。
岡崎の印刷会社と味噌蔵、そして製紙会社が協力して生まれたこの取り組みは、味噌文化の新しい伝え方として注目されています。
蓋味噌の有効活用を検討して

八丁味噌は、木桶に仕込んだ味噌の上に石を円錐状に積み、長期間熟成させて作られます。その過程で桶の上部にできるのが、「蓋味噌」と呼ばれる部分です。
この蓋味噌を、別の形で活かすことはできないだろうか——。
そこで岡崎市内の岡田印刷とまるや八丁味噌は、「地域の企業同士で何か新しいことができないか」という思いから、このプロジェクトが動き出しました。
味噌を紙に混ぜるという発想

開発のヒントになったのは、ビジネス見本市で見たコーヒー豆からつくられた紙でした。
「食品素材を紙に混ぜることができるなら、味噌でもできるのではないか」
その発想から試作が始まります。
製造に協力したのは大阪の製紙会社「山陽製紙株式会社」。再生紙パルプに蓋味噌と水を混ぜ込み、紙として漉いていきます。このように複数の原料を混ぜてつくる紙は、製紙業界では「混抄紙(こんしょうし)」と呼ばれています。
味噌の色と香りを残すための試行錯誤

開発で最も苦労したのは、味噌の配合率で、試作では味噌5%、10%、15%の3種類を作成。検証を重ねた結果、味噌の色が出るのは10%以上、香りを残すには15%程度が上限というバランスにたどり着きました。
製造工程では、再生紙パルプと味噌、水を混ぜたものが、まるで濃い味噌汁のような状態になるといいます。それを薄く伸ばしながら紙に仕上げていきます。
乾燥後の紙には、大豆の皮が模様として現れ、八丁味噌らしい自然な風合いが残ります。こうして約1年半の試行錯誤を経て、2025年2月ごろに八丁味噌紙が完成しました。
名刺から広がる味噌文化

完成した八丁味噌紙は、主に名刺用途として展開されています。名刺は、直接手渡されることで確実に相手の手元に残るツールであり、「最も効率の良いダイレクトメール」とも言われます。
その紙が味噌からつくられていると知れば、自然と会話が生まれます。名刺交換をきっかけに、岡崎の食文化や味噌文化の話題へと広がります。
現在では自治体の名刺や表彰状、熨斗などにも利用され、地域をPRするツールとしても活用されています。
味噌の可能性は、まだ広がる

今回の取り組みについて、株式会社岡田印刷・常務取締役の岡田翔さんは、地域企業の連携が生み出す可能性についてこう語ります。
地方には、全国に誇るべき技術や独自の強みを持つ企業が数多くある一方で、その価値を広く発信していくことは決して簡単ではありません。そうした課題意識から、企業同士が手を取り合い、掛け合わせることで、新たな価値を生み出していくことが重要だといいます。
また、紙は時代が変わってもなお、人の感覚に直接働きかけることのできる、普遍的で汎用性の高い素材です。八丁味噌紙は、「見る」「触れる」だけでなく、「嗅ぐ」という体験までを内包し、五感に訴える表現を可能にしました。デジタルが主流となった今だからこそ、紙にしかできない物語の届け方や価値があるといいます。
「企業同士が掛け合わさることで、単独では生まれなかった価値が生まれると考えています。岡崎という地域で、その一つの形を示すことができました。この取り組みが、やがて全国へと広がっていくことを願っています」と、岡田さん。
味噌を「食べる」だけでなく、文化として伝えていく。
八丁味噌紙は、味噌の新しい伝え方を示す取り組みといえるかもしれません。
八丁味噌紙の名刺は、100枚単位で注文することができます。詳しくはこちらをご覧ください。
【株式会社岡田印刷】
TEL/0564-21-7151
文/秋山昭代
