「臥龍みそ」の名で親しまれている馬場商店は、「醸造の郷」として有名な岡山県備前市で大正時代から続くみそ蔵。三代目の馬場敏彰さんは、「備前焼熟成」という独自の製法を考案したほか、「紅糀みそ」を業界で先がけて開発したことで知られています。
(聞き手/藤本智子)
みそづくりのこだわりを教えてください。
みその材料は、大豆、米、麦、塩など、いたってシンプル。だからこそ、味に直結する原料の選定は非常に大切です。弊社では厳選した原材料を使用し、添加物などは一切使用しません。みその味を決めるのは「麹」ですが、約100年間代々受け継がれてきた麹室を使い、独自の麹菌で手間ひまを惜しまずに加工しています。創業者である祖父が開発した「臥龍田舎みそ 」は、長期熟成のこっくりとした濃厚な風味で、シジミなどによく合います。父(二代目)がつくったまろやかで深みのある白みそは数々の賞をいただいた一品です。
「備前焼熟成」とは?
備前市は、1000年の歴史を誇る備前焼のふるさと。よく「備前焼のカップで飲むとお酒がおいしい」と言われているのをご存知でしょうか? これは、備前焼が発する遠赤外線の効果と考えられているようです。弊社はこの作用に着目し、特注の備前焼き棒を制作、みそに差し込んで熟成させています。備前焼き棒を入れると、みそ中の酵素や酵母の働きが活性化され、ムラがなく発酵・熟成が進み、大豆のうま味や甘味、香りが最大限に引き立ちます。
「紅麹」とは?
「紅麹」は、米などの穀物に付着させ培養した麹の一種で、中国に古くから伝わる健康食品です。沖縄の「豆腐よう」やお菓子の色付けなどにも用いられています。紅麹が生産する成分に、ギャバやモナコリンがありますが、ギャバは血圧を下げる効果やナトリウムの排泄、イライラ緩和、二日酔い予防などの効能が期待できます。モナコリンは、悪玉コレステロールを低減するとされてます。約20年前、ある展示会でこの紅麹を見つけたのですが、味見をすると、渋くて苦くてひどい悪臭…、たとえるなら、まるで雑巾(笑)。いくら体に良くても…と思いましたが、紅麹の効能と鮮やかな紅色の美しさに後ろ髪をひかれて、「紅糀みそ」の研究開発をスタートしました。
「紅糀みそ」の開発ストーリーを聞かせてください。
紅麹の味と匂いは強烈で、開発には苦戦しました。大学の研究室や醸造界の先輩に相談するなど試行錯誤し、気づいたら計約4トンのみそを試醸・廃棄、およそ4年の月日が経っていました。ようやく納得のいく味にたどり着き、いよいよ商品化。しかし当時は紅麹の存在すら知られていなく、お客様からは「みそのはしか」とか、「風疹みそ」とか言われました。ショックでしたが、さらに研究を重ねる契機となり、いよいよ紅麹の強い「抗菌効果」を発見。10%程度の低塩でも安全に醸造でき、紅麹の鮮やかな色はそのままに、じっくりと寝かせた香りとうま味、まろやかでスッキリした風味に仕上げることができました。今では看板商品となり、多くの方に「紅糀みそ」を愛用いただいています。
夢を聞かせてください。
「おいしくなければ食品ではない」これは、代々受け継がれている格言です。祖父も父も厳しい人でしたが、私自身のみそづくりや研究への向き合い方に、大きく影響しています。人の心と体を育む大切な食、これからもおいしくて体にいいものをお届けしたいと思います。海外の方へはディップなど、食べやすくして、もっと訴求していきたいですね。実は、49歳のときに急性膵炎になって、そこから考え方が大きく変わりました。地元のためにも、できる限りのことをしていきたいと思っています。また、みそまるは素晴らしいアイデアですね。一緒に広めていきましょう。
【馬場商店】
岡山県備前市香登本868
TEL/0869-66-9027
【取材を終えて】
みそへのあくなき探求心、ものづくりの原点を学びました。そして、地域のためにとご尽力されているお姿に感銘しました。馬場社長イチオシ! 馬場商店の米こしみそを使用した「こくぶ寿司」のなめこ汁は、まろやかでいて濃厚、最高のお味でした。
(藤本智子)