木嶋こうじ店・木嶋康貴さん「良い麹になってくれてありがとう」

静岡市清水区の「木嶋こうじ店」は、旧来より引き継がれる麹蓋製法による手づくりの米麹をはじめ、味噌や甘酒などを自店舗にて製造販売する麹屋です。同店6代目の木嶋康貴さんにお話を伺いました。

聞き手/秋山昭代

【木嶋康貴さんプロフィール】
1970年生まれ。一般企業に就職したのち、26歳で家業に従事。2016年6代目として事業を継承。「Instagramに載せるため」と始めた塩麹、醤油麹を使った簡単なおうち料理や具だくさんの味噌汁づくりが最近の趣味。

木嶋こうじ店について教えてください。

興津宿と江尻宿の中間(現在の静岡市清水区袖師町)の東海道沿いにあり、江戸時代末期に初代・長兵衛が甘酒茶屋として創業したのが始まりだと聞いています。ただ40年前の建て替えの際に先代が全て処分してしまったため、それを証明するようなものは看板しか残っていません。

代々家族で切り盛りしてきた小さな麹屋ですので、日々の仕事は受注、製造、販売、発送から経理まで全てを自分でこなしています。ここまで続いてこられたのは、小さな商いを大事にしてきた歴代のこうじや長兵衛さんたちの勤労の積み重ねと、地元のお客様の途切れないご愛顧によるもの。先々のことはわかりませんが82歳で今もバリバリ働いてくれる母の年齢を超えるまでは、無理せず一人になっても自分のペースで続けていきたいと思っています。

原料のこだわりについて教えてください。

原料は銘柄にこだわらず国産の物を使っていますが、唯一こだわってきたのは大豆。先々代の頃から甘みと油分が多く、かつ価格も手頃な北海道産秋田大豆「キタムスメ」にこだわってきました。

しかし、令和4年から作付けが途絶え絶滅品種となってしまい、現在は問屋さんに御尽力いただき、令和3年産の物をかき集めて何とか繋ぎながら、次の品種を探している状態です。そのような状態ですので私のできることは代々伝わる製法と配合を忠実に守り続けていく、それこそがこだわりなのかもしれません。

看板商品の駿河金山寺味噌とは?

皮を払った挽き割り煎り大豆と米、小麦、大麦を合わせて製麹した4種混合麹に塩、粗目と水飴を少量使った甘さほんのりの辛口。大きく切った茄子、白瓜、生姜がたくさん入っていて、ご飯にのせて、お茶漬けや炒飯にしてと飽きずに楽しめる金山寺味噌です。

金山寺味噌といえば紀州(和歌山県)が発祥の地として有名ですが、ここ駿河の国でも古くから各ご家庭で“手前金山寺味噌”をつくる習慣があり、最近はあえて“駿河”金山寺味噌と名乗るようにしています。麦麹と豆麹に醤油を加えてつくる発酵調味料の醤(ひしお)がありますが、私個人としては醤油を使わないこの金山寺味噌こそが、本来の流れを汲んだ醤の派生なのではないか?と考えています。

最後に一言お願いします。

麹づくりは早朝から深夜まで気が抜けない大変な仕事ですが、良い麹に仕上がると嬉しくて、毎回出来上がった麹には「ありがとう」と声をかけています。たまにする失敗も含めてこの仕事が楽しくて仕方ありません。私のこの思いはきっと麹にも伝わって、おいしい味噌や金山寺、甘酒、塩麹、醤油麹になってくれているはず。

時流や流行に乗らず、大げさなことを謳わず、地に足つけて実直にできることを精一杯繰り返すことをこれからも続けていくだけです。まだまだ半人前ゆえ職人という言葉には抵抗があるので、麹屋さんと呼んでください。また、良かったら毎日Instagramで発信しているのでぜひ見てください。

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