九州病院の伊藤浩司先生は、健康診断受診者1521人を対象に、みそ汁の摂取と血圧と心拍数の関係について調査を実施。みそ汁は塩分が高いから飲んではいけないと思っている方も多いと思いますが、調査から見えてきた、みそ汁の秘めたる力について教えていただきました。
(聞き手/藤本智子)
普段のお仕事について教えてください。
九州病院循環器科は、心臓・血管疾患の診療を24時間態勢で行い、診断治療からリハビリテーションまでを一貫して対応しています。私はこれまで、臨床では主に循環器の急性期疾患の診療治療に従事してきましたが、現在は主に検査室業務に関わるほか、専門性を生かした外来診療を行っています。小学校高学年のとき、「人の役に立つ仕事がしたい」と思って以来、医師を目指し勉強してきました。人の命に向き合う仕事なので、手の施しようがなく、悔しい思いをすることもありますが、患者さんが治療を受け、元気になってくれたときのうれしさは半端ではありません。
どんな調査を行ったのでしょうか?
九州病院を訪れた、50~81歳の健康診断受診者1521人を対象に(高血圧治療中391人含む)、1 週間にみそ汁を飲む回数で4つのグループに分類し(図A~D)、血圧と心拍数を比較しました。みそ汁は、身近にある食べ物で、かつ習慣的に取り入れるものなので、調査の題材には最適と考えました。みそ汁を飲んでも血圧が上がらないというのは、過去の研究データからも予測がつきましたが、他にも驚くべき結果が出てきました。
調査結果から見えてきたことは?
みそ汁を飲む回数と血圧に関係は見られず、さらに、みそ汁を摂取する頻度が高い人ほど、心拍数が低いことがわかりました。特に、心疾患による死亡者が増加する寒冷期の心拍数を抑える傾向がありました。つまり、習慣的にみそ汁を摂取することは、心拍数上昇を抑制する有用な食事療法になり得ることが示唆されたのです。また、驚くことに、大学在職中に行った動物実験では、みそ汁による心拍数低下が「自律神経(交感神経と副交感神経)バランス」の改善によって生じることも明らかとなりました。心拍数が低いほうが、心血管病のリスクが低いことが知られており、血圧上昇や心拍数上昇が抑えられると、心臓や脳にもやさしい状態になると考えられます。
みそ汁の塩分は気にしなくて大丈夫?
みそ汁を飲むと、高血圧になる…と敬遠される方が多いのですが、みそには高血圧の薬と同じ働きをする成分(血圧を上昇させる生理活性物質の働きを阻害)が含まれていることが、最近はさまざまな研究で実証されています。塩分摂取量には留意する必要はありますが、塩分自体は必要不可欠なものです、一日一杯のみそ汁を習慣にすることが、健やかな生活を送る第一歩になるでしょう。私も以前より、みそ汁をよく飲むようになりました。甘口の九州の麦みそに、じゃがいものみそ汁がお決まりです。
夢を聞かせてください。
病気にかからないようにするための「予防医学」に興味があります。人の体は一様ではなく、生活習慣や食生活など、他の要因も複雑に絡んでいますので、今後は、みそ汁を限定的に摂取した場合など、もう少し踏み込んだ調査を実施したいと思います。「みそ汁」は、安心かつ安定的に人々の健康を支えるものだと、大いに期待していますので、その力を実証できたらと思います。
1日100gのみそを食すミソガールの血管の状態を調べていただきました。
血圧
右上腕血圧107/71 左上腕血圧109/74
右足首血圧121/64 左足首血圧112/68
血圧はまったくの正常値。血管年齢は27歳と、実年齢の-6歳! しなやかできれいな血管と褒められました(笑)。