大正13年の創業以来、90年続く老舗の麹屋で、厳選した材料と昔ながらの製法にこだわり、みそをつくり続ける平田康高さん。食べた人のほとんどがリピートするという「仙年みそ」のおいしさの秘密に迫ります。
(聞き手/青柳真美)
現在のお仕事を始めたきっかけは。
20代のときに3年ほど手伝った家業のみそづくりですが、その後は会社員として働いていた20年前、父親が亡くなったのをきっかけに、正式に継ぐことになりました。でもいざみそをつくろう、麹をつくろうと思っても、簡単にできるものではありません。父に教えを乞うこともできず、本当に大変でした。いろいろ試しては、失敗と成功の繰り返し。みそづくりには寝かせる時間が必要なため、結果が出るのは1年後。納得のいかないみそは思いきって樽ごと全部捨てました。私自身、妥協したくなかったし、何より、お客様をだますことはできないと思ったのです。プライドを持ってつくっているみそだから、お客様には自分で届けるし、量販店などに販売を託す際は、こだわりの商品ということが一目でわかるように陳列してとお願いしています。みそは生き物だから、赤かったり、白かったり、少し硬かったり、柔らかかったり…2つと同じ商品はできないと、お客さんにも理解してもらっています。ほかのみそに比べたら値段も高い。でも、その理由を理解して、リピートしてくれる人を大切にしたいと思っています。
つくり方の特徴を教えてください。
北海道大雪山麓のきれいでおいしい浮流水、道産米、道産大豆、塩だけで、つくった無添加みそです。最大の調味料は、地下水100%のおいしい「水」。ほかの材料がどんなに良くても水が悪ければ、臭みが出たり、濁りが出たりします。その点うちは恵まれています。東川町は北海道で唯一、上水道のないまちなんです。1年以上じっくり熟成・発酵させてつくる「生きたみそ」。原料の大豆は、蒸すのではなく、じっくり3時間ほどかけて「煮る」という独自の製法。そこで出た煮汁は、すり潰した大豆、米麹、食塩に加えて攪拌させることで、まろやかな旨みが生まれます。みそづくりの要である麹づくりは、機械に頼ることなく、窓の開け閉めで空気の流れをつくることで温度調整。手間がかかるだけでなく、つくり手の技と勘がすべて。誰でもつくれるみそをつくっても意味がない、というのが私の考え方です。手を抜いたりすれば、そのまま商品に影響してしまうので、魂を込めてつくっています。
「仙年みそ」の中でも一番の売れ筋は「天日塩みそ」。「こうじ」「みそ」の他にも、みそのうまみが凝縮された「たまり汁」や万能調味料「塩こうじ」も人気。
東川町はどんなまちですか。
北海道上川郡東川町は、豊かな自然に恵まれながら、旭川という都会に10分で行ける立地です。ベッドタウンとして、年々人口を伸ばしていますが、「写真甲子園」「家具の町」として、全国に知られるところとなりました。おかげさまで、移住者、定住者ともに増え続けています。「写真甲子園」は回を重ね、高校生たちが盛り上がってくれていて、町民たちも他人事ではいられなくなりました。そしてもう一つ力を入れているのが、日本語の専門学校です。アジアの学生たちが、東川町で日本語を学び、日本の大学へ進学したり、日本の企業へ就職したり…。地域に根差し、商売をやっていく上で、こうした地域とのつながりはとても大事です。特に20年、30年先のことを考え、今何をすべきかと、松岡市郎町長ほか、地元の方たちと話しながら、いろいろな事を進めています。
夢を聞かせてください。
仕事もボランティア活動も、自分に与えられた役目と思って、やらせていただいています。結局のところ、人と人とのつながりがすべてであり、信頼第一です。いいみそをつくっても、食べてくれる人がいなければ始まらない。それには子どもたちの正しい味覚を育てないといけません。そのためにも、自信をもって、子どもたちに食べてもらえる、最高のみそをつくり続けなければ。以前、原料の高騰で、輸入物を使おうかと迷いましたが、「道産大豆使用」とうたっているのに、それでは信用して食べてくれているお客様を裏切ることになる、と、そこは譲れませんでした。代々受け継がれてきたものを守り続けていくこと。また常にお客様の声に耳を傾け、新しいことにも挑戦していきたいと思っています。
【平田こうじ店】
北海道上川郡東川町西町9-1-23
営業時間/8:00〜18:30
不定休