“魂の器”漆器で食すソウルフード。お椀から広がる味噌汁の世界

日本を代表する伝統文化の一つである「漆器」。実用性に加え、艶やかに輝く優雅な美しさと重厚感を併せ持ち、古代より人々の食卓に華を添えてきた。日本の漆器は、海外でも高く評価され、「japan」と称されていたほどだ。味噌汁が誕生したのは、鎌倉時代。当時は味噌も漆器も貴重なものだった。

日本人は、漆器を「魂の器」として大切に扱い、「ソウルフード」である味噌汁を注ぎ何世代にもわたり飲み続けてきた。現代では、手軽さを理由に、プラスチック製の器を使うことが増えたが、漆器は、耐久性、耐熱性、利便性、抗菌性に優れた万能食器である。

お気に入りの漆器で飲む味噌汁は、一味も二味も違って、毎日の生活に潤いをもたらすだろう。

※本記事では、「漆器=漆器の汁椀(素材は木材)」という意味で記載しています。また、特に記載がない場合は、「合成漆器」ではなく、天然の「漆器」についてです。

一大産地である輪島塗や山中漆器、会津塗等、各地で個性豊かな漆器がつくられている。産地によって製法や使用する材質が異なり、たとえば、同じ「朱色」でも出来上がりの色合いが微妙に異なる。ご当地味噌×ご当地漆器に着目してみるのも面白い。


漆器を知る

「漆液」は、ウルシの木から採れる100%天然の樹液(以下「漆」)で、「自然界最高の塗料」と称される。歴史は古く、縄文時代から接着剤や塗料として使用されてきたとされる。現代に通じる技法が確立されたのは平安時代の頃といわれている。現在の主要産地の多くは江戸時代に誕生し、基礎を固めている。

ウルシの木から採取したばかりの漆
『漆塗りの技法書』より

漆器は、ウルシの木からにじみ出る漆が固まる性質を利用したものだが、これは、漆樹が外傷をふさぐ個体維持機能と考えられている。漆が乾燥(固化)して生成される漆膜は、酸やアルカリに強いだけでなく、耐熱、耐湿、抗菌などの働きがあり、美しい光沢を生み出す。

ウルシの木は、日本や中国、朝鮮半島に生育するうるし科ウルシ属の落葉高木。うるし科の植物は、約70属600種知られており、大きなもので高さ10m、直径50cmにもおよぶ。ウルシの木から漆を採取する人を「漆(うるし)掻(か)き」「漆(うるし)掻(かき)人(にん)」などと呼ぶが、毎年6月~10月頃に樹皮部に傷をつけ、そこから浸出する漆を丁寧に採取する。10年育てた一本のウルシの木から採取できる漆は、たったの200g程度。日本産は、主成分のウルシオールが多く最高級とされるが、希少価値が高く市場に出回っている大半は中国産となっている。

『漆塗りの技法書』 より

漆器づくりの工程は、大きく分けると土台となる素地づくり、下地づくり、塗り、加(か)飾(しょく)の4つに分けられる。各工程は、通常分業で行われている。いくつもの工程を経てつくられる伝統的な製法は、驚くほどの手間と時間がかけられ、使う素材や製法も幅広い。

漆器には、木目を見せて透けて見えるように塗ったもの、漆本来の色や光沢を楽しむもの、蒔絵など華美な加飾をされたものなど、さまざまな種類がある。詳しく知りたい方は、右記書籍がおすすめだ。


『漆塗りの技法書』
著者/十時啓悦・工藤茂喜・西川栄明
発行/誠文堂新光社


漆器の抗菌効果

漆器の優れた防腐・防虫効果は、古くから生活の知恵として知られてきたが、金沢工大環境・建築学部バイオ科学科の小川俊夫教授の実験で科学的に実証された。実験では、漆器に大腸菌とカビを付着させ、気温36度の下で24時間放置し、菌数を比較した。結果、漆器の大腸菌はほぼ死滅し、カビについても一定の抗菌性が確認された。一方で、プラスチック製品は、大腸菌はほとんど減少していなかったという。自然が生み出した漆は、「抗菌性」という点でも、日々の食事やお弁当、家具などに最適な塗料といえる。


椀バランスを!

味噌は白~赤まで、さまざまな色合いがあるため、出来上がりをイメージして、お椀のデザインや形、味噌や具材の色合いなどを考慮し、バランスのよい一品に仕上げよう。シンプルな無地タイプは、数種類常備したい。加えて、蒔絵などが入ったゴージャスな漆器があるとさらに◎。また、漆器には、赤、黒以外にも、緑、黄、紫、青、白などさまざまな色のバリエーションがある。


漆器のトリセツ

柔らかいスポンジに洗剤をつけて洗ったあと、水分を拭き取る。最初に使うときは、熱湯にしばらく浸けるとよい。紫外線に弱いため直射日光は避ける。食器洗浄機※や乾燥機、電子レンジ、オーブンは不可。また、ストーブなどの暖房器具の近くや、冷蔵庫の中には入れない。

また、漆器は直接重ねてOKだが、陶器やガラスなど異素材のものと重ねないほうがいい。※最近では、技術革新により「食器洗浄機対応」の漆器も出てきている。


蓋にチューモク!

家庭では省略されることが大半だが、味噌汁の蓋は、温度低下を防ぎ、直前まで香りを逃さずおいしさを保つ。「みそまる」も、蓋をして30秒ほど蒸らすと、香りが増す。また、汁椀の蓋には、豪華な柄が描かれていることが多く、味噌汁が運ばれてきたら、まず蓋を眺めるのも楽しみの一つ。

なお、和食店では、「霧吹き」といって、あえて蓋に水滴をつけることも。「誰も手をつけていません」「中身がちゃんと入っている」「お椀の正面を印」などの意味だ。



子どもにご当地漆器を!

子どものうちから漆器に慣れ親しんでもらうため、ご当地漆器を給食で使う取り組みも進められている。


日本漆器協同組合連合会・春原政則さんに聞く「漆器の活用術」

春原政則さん

見た目の美しさはもとより、手に触れた時や口につけた時の心地よさ、やさしいぬくもり、木の断熱効果で手に持っても熱くない、軽くて使いやすいなど、「漆器」は、味噌汁を飲む器として最高の食器です。

「漆器」というと少々敷居が高く、また、一口に「漆器」といっても、さまざまな種類があります。天然の漆のみを使用したものに「漆器」と表示ができ、天然以外の合成樹脂塗料等を塗ったものは「合成漆器」となります。

天然のものは原料も高価な上、数十から、多いものだと100以上もの工程を経るものもあり、大変な手間暇がかかっています。その分値段は高いのですが、品格ある見栄えに加え、使えば使うほど味が出てくるのが魅力。劣化ではなく、変化。漆を丁寧に塗り重ねられた漆器は硬く、丈夫になり、正しく扱えば何十年も使えるのです。

一方で、現在市場に多く流通している「合成漆器」は、大量生産が可能で、手頃な価格で購入できます。長年使っていると劣化しますが、使いやすさや手軽さが魅力です。また、天然の「漆器」は耐久性はあるものの乾燥には弱いため、たとえば海外の乾燥地帯ではひび割れを起こしやすく、この場合は、合成漆器を使うのが正解です。

漆器の特徴や扱い方を知り、TPOに合わせて使い分けると、楽しみ方は各段に広がるでしょう。ご自身にぴったりな漆器と出会い、特別な一杯を召し上がってください。

また、漆器は、割れにくいことから、結婚式などお祝いの品として選ばれることも多く、贈答品としてもおすすめです。新郎新婦の出身地のご当地味噌とセットで送るのもいいですね。

<取材協力>日本漆器協同組合連合会
日本漆器協同組合連合会は、全国の漆器産地17組合が加盟する全国団体。市場開拓、調査、研究、漆器産業の継承・発展に寄与する活動を行う。

<参考>『漆塗りの技法書』(著者/十時啓悦・西川栄明・工藤茂喜、発行/誠文堂新光社)、『なぜ、日本はジャパンと呼ばれたか 漆の美学と日本のかたち』(著者/中室勝郎、発行/六耀社)、『漆百科』(著者/山本勝巳、発行/丸善出版)、『和食検定  基本編』(編者・発行/日本ホテル教育センター)

株式会社ミソド代表取締役、一般社団法人みそまる普及委員会理事、月刊「ジャパン味噌プレス」編集長、みそソムリエ。アパレル販売員、読者モデルを経て、2011年「ミソガール」として味噌の普及活動を開始。みそまる考案。ミラノ万博や伊勢志摩サミット等イベントやメディア出演を通し、味噌の魅力を伝えている(2019年MISODOに改名)。『みそまる』(宝島社)、『手軽に作れて、キレイに効く! みそまる』(主婦と生活社)等著書多数。※サイトに掲載している記事は取材当時の情報のため、現在と内容が変わっている可能性がございます。