7月31日より上演される芝居「オミソ」は、31年前の平成元年、福島県の小さなみそ屋を舞台に繰り広げられる、ある家族の物語。「みそ」がタイトルのお芝居と聞いて驚いた。脚本・主演を務める岩瀬晶子さんに、「みそ」に注目した経緯、芝居を通して伝えたい思いを聞いた。人々の”ドラマ”を生み出す「みそ」という食べ物。舞台「オミソ」を通して、計り知れない「みそ」のパワーを感じることができるだろう。
藤本●舞台「オミソ」が公開されると聞き、興奮しています。まず、岩瀬さんのお仕事から教えてください。
岩瀬●俳優、脚本家、日英アナウンサーとして活動するほか、2008年に「日穏-bion-(ビオン)」という劇団を立ち上げました。「bio」は「biology(生物学)」や「biography(伝記)」など、“生命”や“生活”という意味です。何気ない日常の中に、人を笑わせ、涙させるドラマがたくさんあり、舞台を見てくれた人が、自分の生命の尊さを感じてもらえたら…。そんな思いで作品づくりに打ち込んでいます。
藤本●みそも麹菌や酵母、乳酸菌などたくさんの微生物が醸し出す生命力あふれる食べ物。そして長い間、日本人の生活に寄り添ってきました。岩瀬さんが大切にしている世界観“生命”や“生活”と共通点が多いなと思いました。具体的には、どんな作品を手がけているのですか。
岩瀬●戦争やいじめ、差別など社会問題を背景に盛り込みながらも、人間味あふれる笑って泣ける密度の濃い作品が多いです。少しでも社会の力になれればと、毎回収益の一部と募金を、東日本大震災の被災地や世界の恵まれない子どもたちに寄付しています。
藤本●メッセージ性の強い作品をつくられているのですね。役を演じる際に、意識されていることはありますか。
岩瀬●私たち「役者」でなくても、人は皆普段から「演じている」と思うのです。子どもの前、友だちの前、仕事のとき…それぞれ違う自分になります。ですから、特別に構えることはせず、自然に役に入ります。これから稽古が始まりますが、現場の空気や役者のイメージなども考慮し、調整しながら作品を仕上げていきます。
藤本●たしかにそうですね。みんな無意識にTPOで演じ分けているのかもしれません。本題の「オミソ」のあらすじを教えてください。
岩瀬●時は平成元年、バブル真っただ中で、若者は恋に遊びに大忙し。そんな浮かれた空気はどこ吹く風、何十年も変わらぬ佇まいを見せる「佐伯みそ屋」が舞台です。伝統製法を受け継ぎ、看板を守ってきた店主が亡くなり、店は存続の危機に陥ります。そんなある日、若い頃に家を出た次男坊が帰ってきますが、亡き長男の嫁には複雑な思いが…。あとは、舞台を見てのお楽しみということで(笑)。
藤本●佐伯みそ屋を取り巻く、複雑な家族事情が含んでいそうですね。どんな結末になるのか、ハラハラドキドキです。今回、みそを題材に選ぼうとしたきっかけは何ですか。
岩瀬●数年前、小豆島で木桶を使いしょうゆをつくっているメーカーを取材する機会がありました。そこで知ったのは、木桶職人が激減し、伝統製法の継承が危ぶまれているという事実。また知り合いの、富山の老舗みそ屋の跡取りに聞いた話です。若い頃は、「みそ屋はとにかくキツい仕事。年々消費も減っていて先が見えない…」そう思って逃げ出したそうです。今は跡を継いで、みそづくり教室や講演など、精力的に活動していますけどね。
藤本●食生活の欧米化の問題と、一口に言えることではありませんが、残念ながら、その価値を理解しない風潮があります。
岩瀬●もう一つ。以前「夕顔」という作品で、かんぴょう農家の後継者問題について取り上げましたが、みそ屋でも同じようなことが起きているのだと。現状を知るため、数社に取材に出向きました。
藤本●さすが。行動的ですね!
岩瀬●実際に行って、見て、話を聞かなければわからないことがたくさんあるので、毎回必ず足を運んで取材するようにしています。
藤本●私もつくづく思いますが、今はネットで何でも情報が手に入りますが、現場で感じること、わかることってありますよね。
岩瀬●つくり手の話を聞くうちに食べ物を見る目や考え方が180度変わり、今はできる限り生産者の顔が見えるもの、オーガニックや無添加食品を選ぶようにしています。みそも自分で仕込みましたが、熟成していく過程を見ていると愛情がわいてきます。そんないろいろな出会いが重なり「オミソ」にインスピレーションを感じました。
藤本●ここ数十年で数百社のみそ屋が廃業や倒産をしています。中にはよく知るみそ屋もあり、苦渋の決断と聞きました。一方では次期後継者が、商品開発や販売促進などに積極的にチャレンジする会社もありますし、新たにみそ屋を興した若い方もいます。
岩瀬●私もよく知らなかったのですが、たくさんのみそ屋があるのですね。
藤本●全国には大小さまざまなみそメーカーがあり、つくり方も、味も個性もいろいろです。いろいろなみそを楽しんでほしいとは思いますが、「慣れ親しんだ味」も大切です。岩瀬さんはどんなみそがお好きですか?
岩瀬●私は4人きょうだいの末っ子です。今もきょうだいとたまに会って、確信するのは「母の味」。みそにこだわっていた母のみそ汁は、赤みそと白みその合わせみそ。気づけば私も、同じようにつくっています。すでに母は他界しておりますが、その味に近いみそを探しては、いろいろ試している私です。みそ汁を思うと、祖父母も入れて8人という大家族で食卓を囲んでいた風景が脳裏に蘇ります。
藤本●みそ汁には、情景を呼び起こすという、不思議な力がありますね。楽しいときも辛いときも、変わらず家族で食べるもの。私も、福岡出身の母がつくる、麦みそのみそ汁が一番の思い出です。
岩瀬●今は、そんなみそ汁の思い出をもつ子が、どれくらいいるのでしょうか。
藤本●学校や幼稚園の出前授業で「朝みそ汁を飲んできた人?」と聞いても、数名しか手が挙がりません。中には「みそを知らない」という子どももいて、危機感を感じています。
岩瀬●たとえるなら、みそは「心のふるさと」で、日本の食卓にはなくてはならないもの。みそ汁を家族で一緒に飲むことが大切であり、それぞれの家庭に、みその“ドラマ”が残っていくことを願います。
藤本●古くからみそは人々の生活に寄り添い、先祖も、特別な存在としてみそを扱ってきました。もはや食べ物以上に、とてつもなくスゴイ価値があると思わずにはいられません。最後に、読者の皆様に一言お願いします。
岩瀬●作品を見て、家族のあたたかさやつながりを感じていただければうれしいです。「家族に会いたいな、一緒にみそ汁を飲みたいな」と思ってもらえると思います。ぜひ劇場に足を運んでください。
藤本●今から舞台がとても楽しみです。今日はいろいろなお話をありがとうございました。
【対談裏話】
初対面でしたが、示し合わせたかのようにピタリと服がかぶりました(慌てて着替えましたが、写真はオソロな一枚)。しかも、アナウンサー名が藤本ケイさん!「息が合いすぎるね、私たち。前世は姉妹だったのかも」と岩瀬さん。サバサバとした性格、堂々と潔く、かっこいい女性。私もそんな風になれるよう、熟成を続けたいと思います。(藤本智子)
【公演情報】
●中野・テアトルBONBON
2019年7月31日(水)~8月6日(火)
料金/一般4000円(前売り)4300円(当日)・高校生以下2500円
☆盆踊り割 3800円(裏の公園から盆踊りの音が漏れてくる可能性があります。この回に限り浴衣を着てきた方は更に300円引きの3500円)※要事前予約
●富山県民小劇場ORBIS
2019年9月21日(土)・22日(日)
料金/一般3000円(前売り)3500円(当日)・高校生以下2000円
【トークショーのお知らせ】
8月1日(木)14:00の部公演終了後、岩瀬晶子さんとともにMISODOが登壇、トークショーを行います。出演者との記念撮影会も行います。観劇後のお楽しみとして、ぜひご参加ください!
※このイベントは終了しました。