岩手県花巻市にある佐々長醸造は、明治39年の創業以来使い続けている50本以上の木桶を大切に手入れしながら、味噌や醤油、麺つゆなどを製造しています。クラシック音楽醗酵天然味噌蔵では、ベートーヴェンの「田園」を聴かせながら味噌を熟成させています。人気商品の麺つゆは、メディアで取り上げられたこともあり、慢性的な品薄状態が続いているほどです。代表取締役社長の佐々木洋平さんにお話を伺いました。
聞き手/秋山昭代
【佐々木洋平さんプロフィール】
1982年生まれ、岩手県出身。東京農業大学卒業後、福島県の内池醸造、栃木県の青源味噌で修行を積む。2009年に佐々長醸造入社。2023年に5代目・代表取締役社長就任。
佐々長醸造について教えてください。
明治39年に小さい造り酒屋として創業し、大正時代に味噌と醤油の製造販売を開始しました。当時の木桶を今も大切に使っており、平成3年に完成させたクラシック音楽醗酵天然味噌蔵では、ベートーヴェンの「田園」を聴かせた天然醸造での味噌づくりにこだわっています。自社ブランドの味噌は材料の等級や麹歩合の違う10数種類、他社のPBを含めると30種類ほど製造しています。
すべての仕込み水に使用している「早峰池霊水」は、私の祖父で3代目の佐々木喜七が知人の地質学者の助言で敷地内に地下水脈を掘削しました。早池峰山に降り積もった雪が豊かな地下水脈となって湧き出たナチュラルミネラルウォーターです。「神秘の名水」として評判が良く、醸造に使用する以外にも地元の方々へ無料で提供しています。
入社経緯と普段のお仕事について教えてください。
小さい頃から味噌が大好きで将来は家業を継ぐことを決めており、大学は先代である父と同じ東京農業大学醸造科学科に進学し、父と同じ研究室の教授に師事しました。大学卒業後は、経験を積むために福島県の内池醸造で1年間醤油について、栃木県の青源味噌で3年間味噌について学びました。
2009年に佐々長醸造に就職してからは、主に工場勤務で営業も兼任。昨年秋ごろに5代目を継ぐ予定だったのですが、メディアで取り上げられた麺つゆの増産に注力するため延期になり、生産が落ち着いてきた頃合いを見て、つい先日代表取締役社長に就任したばかりです。現在は、会社全体の管理ほか営業、広報活動、製造など多岐にわたります。
人気商品「クラシック音楽発酵 田園」の特徴は?
「クラシック音楽発酵 田園」は、岩手県産「ナンブシロメ」、岩手県産「ひとめぼれ」、瀬戸内海産の食塩を使用し天然醸造で熟成させています。最大の特徴は、秋田杉の木樽で2年間熟成させ、味噌蔵の中でベートーヴェンの「田園」を聴かせて酵母を活性化させていること。上質な香りと強い旨味、ほんのりとした甘みのある味噌で、20年ほど前に開発して以来、人気商品となっています。
また、使っている材料や麹歩合がそれぞれ違いますが、木桶に入っている他の味噌も同じようにクラシック音楽醗酵天然味噌蔵で「田園」を聴かせながら熟成させています。ロングセラーで一番人気の「本蔵出し」は、岩手県産大豆と米を使用した10割麹の味噌です。
他にも「ポケモンローカルActs」という企画から生まれた「イシツブテの味噌」は、「岩手応援ポケモン」イシツブテとのコラボ商品で、岩手県産大豆、国産米を使用した中辛口の味噌です。
読者に一言お願いします。
幼い頃から味噌が大好きで、中でもネギとわかめ、豆腐が入ったシンプルな味噌汁が最強だと思っています。祖父との思い出は、味噌を付けたにんじんや大根などを食べさせてくれたことです。シンプルながら格別においしかったのを覚えています。
コロナが流行する以前、毎年行っていた小学校での出張味噌教室は、保護者の方にも人気のイベントでした。小学生のお子さんに、「今朝お味噌汁を食べた人は?」と質問をすると半分くらいが手を挙げます。毎日食べるのは全体の1/3くらい。週に1回も食べない子は2~3人います。 そこで、当社はお子さんや若い世代にも興味を持ってもらえるよう岩手応援ポケモンコラボの「イシツブテの味噌」や、手軽なだし入りの粉末味噌「Miso Cooking」なども販売しています。これからも次世代に味噌を伝えるための企業努力を進めてまいります。