埼玉県入間市で無農薬でユーカリや大豆、小麦などを生産し、みそや加工品を製造する「加藤ファーム」代表の加藤秀樹さんは、安心安全な食材の生産ほか、カンボジアでの農業支援や、“地元を中心とした活動として、農と人・都をつなぐ”をコンセプトにしたNOTE 代表を務めるなど農業の活性化をテーマに多方面で活躍中。(聞き手/藤本智子)
加藤ファームについて教えてください。
加藤ファームは、もともとは養豚が主でしたが、25 年前に主穀作へ転身しました。オーストラリアと姉妹都市協定を締結している埼玉県から、コアラのエサとなるユーカリをつくってほしいという依頼を受けたことがきっかけです。コアラは繊細なので無農薬栽培で、と条件付きでしたが、無農薬農家はほぼ皆無の時代です。独学で学び、試行錯誤で無農薬栽培を始めた父が、独自の農法を確立し、現在に至ります。コアラのエサは無農薬なのに、人間が食べるものは?と疑問を抱き…。次第に、大豆や小麦などの無農薬生産を始めたそうです。
農家を志したきっかけは?
高校卒業後、1 年間北京留学をしましたが、北京郊外へ行くと、空気が霞んでいることが気になりました。車が少ないのになぜ? その原因は農薬でした。田んぼに大量の液体農薬を蒔いている現状を目のあたりにし、衝撃を受けました。父が無農薬で栽培している意味を考え、農業を継ぐことを決意。「本当にやるの?」と驚いていた父でしたが、不思議と迷いはありませんでした。それから2年間基礎を学び、農業の世界に飛び込みました。
どんなみそをつくっていますか?
なんといっても、丁寧に育てた無農薬栽培の大豆が自慢です。無農薬栽培は虫の害が大変で、ヨトウムシの害を防ぐため、1 か月ほど種蒔きを遅くしています。その分手間もかかるし、大豆の収穫量も減少しますがそれ以上に大切なことがあると考えています。20 年前に父が製作したオリジナル製麹機で、「酒米」を使った麹をつくり、みそを仕込みます。この製麹機こそ、わが家のみそづくりを支えるスグレモノです。できた米麹に蒸しごまをブレンドした「ごま糀みそ」も、ご好評をいただいています。
みその楽しみ方を教えてください。
手前みそですが、自分で仕込んだみそが一番うまいのは当たり前。米より大豆の割合が高く、うまみがぎゅっと詰まっています。みその風味を味わうにはシンプルが一番で、定番ですが、わかめや自家製大根のみそ汁が好きです。年に数回、みそ仕込み体験会を開いていますが、よくある教室形式ではなく、リアルに製品を仕込んでいただきます。お客様は、みそ製造の現場を体験し、完成したみそを通常より安く手に入れることができ、こちらは人手不足が解消されて助かるというWinWin !一石二鳥の企画です。毎年遠方から来られる方もいて、よい交流の場にもなっています。
夢を教えてください。
農薬や化学肥料を必要に応じて使用する最も一般的な栽培方法を「慣行栽培」といいますが、言葉自体に違和感があります。「無農薬栽培」は特殊? むしろ「慣行栽培」のほうがずっと歴史は浅いのです。何物にも代えられない安心安全、限りある自然を守るために、なるべく負担がかからない農法を広めていきたい。大切なのは、農業経営です。特に発展途上国では、適正価格で取引されないことも多々。初めてカンボジアへ行った際、トラクターも何もなく、気の遠くなるような作業を延々と行っていたのを見て、衝撃を受けました。2012 年に仲間と現地法人を設立し組合を設置。農業に関する情報共有ができるよう体制を整えてきました。今後も、自分たちにできることで、支援を続けていきたいと思います。
【加藤ファーム】
埼玉県入間市二本木1136
TEL/04-2934-4905