岩城こよみさん「古くから伝わるおふくろの味・ウチミソの力」

岩城こよみさんは、これまで調査例が少なかった、自家醸造みそ「ウチミソ」の実態について、全国各地121 人分の調査をまとめた書籍を2016 年に出版。収録されているのはごく一部。その後も精力的に調査を進めているという。古くから「おふくろの味」を支えてきたウチミソの魅力、ウチミソに秘められた力とは。 (聞き手/藤本智子)

岩城こよみ●プロフィール
1981 年福岡県出身。2004 年京都造形芸術大学芸術学部芸術文化学科卒業。2006 年近畿大学大学院文芸学研究科国際文化専攻修士課程修了。現在、大阪産業大学非常勤講師、日本民俗学会会員、一般社団法人歴史文化研究所調査補助員、四條畷市史民俗編執筆員。

研究を始めたきっかけを教えてください。

大学で民俗学をテーマにした卒論を書いたのがきっかけで「自家醸造みそ(以下ウチミソ)」に興味を持ちました。当初は「塩」を題材に考えていましたが、調べていくうちに、塩とみそは非常に関係が深いことを知りました。しかし、文献が少ないことを痛感し、だったら自分で調査しようと思ったのがはじまりです。

どのようにウチミソ研究をしているのですか?

大学の非常勤講師として「伝統文化論」を担当する一方で、歴史文化研究所のスタッフとして、調査・研究を行なっています。調査場所は、みその原料である大豆や米の生産が盛んかどうかが、重要な選定基準に。また、婦人会が活発だとウチミソの文化が根付いている場合が多いです。最近は農村だけでなく漁村にも興味がわき、能登や下北半島を中心に回っています。調査は突撃取材が大半のため、思うように情報収集できず、何度も同じ場に足を運ぶことも。こちらを信頼してもらわなければ取材は成り立ちません。コミュニケーションがうまくとれず葛藤することもありますが、たくさんの方の協力により、ウチミソの実態をまとめることができ、感謝しています。

ウチミソと人々の生活との関係性は?

室町時代頃から、現代にあるようなみそ文化が広がっていきますが、自給自足の時代、「豆は借りてでも買ってでも焚け」と言われるくらい、みそは重要視されていました。仕込みは季節や農事歴に密接に関係し、地域や家庭により仕込み方や言い伝え、関わり合いはさまざまです。「みそ桶に御神酒を入れてうまく仕込めるように祈る」「みそを仕込む際『みそ祝い』で甘酒やみそ豆を皆で食べる」「身内に不幸があった年はみそを仕込まない」「赤みそ(フルミソ)は財産のある家の象徴」など、これまでに多種多様なウチミソとのつながりを確認してきました。ウチミソとは代々家庭に受け継がれてきた「おふくろの味」であり、愛情を込めてつくる最強の発酵食=健康食として、家
族の心と体を支えるものであることはすべてに共通しています。

ご自身のみその思い出といえば?

幼少の頃、父親の転勤のため、福岡市内から郊外の古賀市へ家族で移転しました。都会の生活から一転「スローライフ」な毎日に。県内といえどカルチャーショックの連続。そこでは日常的に炊き出しが行われていて、恒例はダゴ入りの豚汁でした。福岡なので、甘口の麦みそが主流。当時から食や歴史に興味を持っていたわけではありませんが、地域の人々とのつながりの大切さを実感できたという点では、今の研究につながっていると思います。

ズバリ、今興味があることは?

みそを仕込む際、大根やごぼう、にんじん、唐辛子など、みそ以外のものを桶の中に入れるということは全国的にあるにはありますが、石川県辺りでは、ゆずをまるごとみそ桶に入れていました。因果関係は現在調査中です。みそ漬け以外にも、人々はウチミソをどのように活用し、どんな気持ちで食していたのでしょうか…。未知の世界の広がりに、非常に興味があります。

夢を聞かせてください。

これまで取材で出会ったおばあちゃんたちは、皆イキイキとしていてとにかくエネルギッシュ。当然ですが、自分がつくったものを誇りにされています。みそや梅干し、漬物など食品加工技術の高さに驚かされると同時に、次代に伝えていかなければもったいない!と感じます。飽食の時代ですが、私の研究が、古きよき食文化と現代をつなぐ潤滑油のような存在になれたらいいなと思います。

『味噌の民俗―ウチミソの力』 大河書房

Koyomi Iwaki, who teaches traditional culture at a college, has been researching the reality of “uchimiso,” homemade miso, which is a long tradition in Japan. She reported her findings in her book Miso no Minzoku: Uchimiso no Chikara.

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