「備荒食」として大活躍した味噌

昔ながらの農業

「飽食の時代」といわれる現代では思いもよらないが、かつての日本では、飢饉によって多くの命が奪われていた。古代から江戸時代にかけて、被害の大小や数え方にもよるが、数年に一度、あるいは毎年のように日本列島のどこかで飢饉が発生していた。また、栄養失調による免疫力低下もあり、飢饉の際は、疫病が蔓延しさらに被害が拡大した。

日本人にとって味噌は、貴重な調味料であり、栄養源であり、生きる糧であった。と同時に、非常時の蓄えである「備荒食」として活用されていた点も誇るべきこと。空腹の胃袋に温かい味噌汁は、どれほどありがたかったことだろう。栄養バランスに加え、消化吸収がいい点でみても、理にかなっているといえる。

江戸時代に発生した飢饉で最も被害が深刻であった「天明の大飢饉」では、少なくとも30万人を超える被害者が出たと推定される。以降は、各地で備荒倉が多く設けられ、米や麦、大豆を貯蔵し飢饉に備えた。

凶作期には、味噌用の大豆を確保するのが先決であったため、各藩では、他領への大豆の移出を禁じた。酒用の米麹の製造は禁止されても、味噌用の麹に限っては製造が許可された地域もあったという。

 一方、各家庭でも、米や味噌の準備を怠らなかった。飢饉は、長ければ数年続くので、5~7年分くらい用意していたという。「味噌もつくれないようでは家運が傾いた証拠」とされ、味噌の自家醸造はさらに広まった。

当然、「備荒食」としての味噌は、長期保存ができる塩分が高めの赤味噌である。しかし、非常時は原料が確保できず、ぬかやふすまを使って一夜づくりの味噌がつくられることもあり、1年、2年と寝かせた味噌は上等品で、人々は誇りにしていた。

昔は、「家族(一人)に1斗、客1斗」を年間の仕込みの目安にしてつくっていたとされるため、一人1斗もの味噌を食べていたことになる。

総務省「家計調査報告」(2017年~2019年平均)によると、1世帯あたりの味噌の購入量は、全国平均で5kg程度。昔は、いかに、味噌が重要な存在だったかが読み取れる。

長い歴史を振りかえってみると、生きる上で食べ物の確保は、常に悩みの種であったのだろう。先人が知恵を絞り、社会的な仕組みや農業技術を進歩させるなど、さまざまな努力を重ねてきたおかげで、今の食文化が形成されていることを忘れてはならない。

味噌は3パック常備!

現在、世界の飢餓人口は8億人を超え、9人に1人が飢えに苦しんでいるとされる。日本の飢饉は過去の話? 果たしてそうだろうか。日本の食料自給率は、戦後大きく低下し、現在は40%程度(カロリーベース)。主要先進国の中では最低水準だ。

このようなご時世でも、世界中から食料を輸入することができるため、私たちは豊かな食生活を謳歌できている。日本の食品ロス量は、毎年約600万トンにも上る。

現代では、江戸時代のような飢饉が起こるとは考えにくいが、政治的な問題や災害、凶作が起きれば、最悪の場合、輸入がストップする可能性もゼロではない。

災害時、数日間の流通が止まっただけで、たびたび買い占め問題が起きる。不安な気持ちもわかるが、普段から少し多めにストックしておけば、もしものときも慌てなくてすむ。

特に、味噌は長期保存ができる。多めに数種類常備しておけば、普段は「合わせ味噌」が楽しめるし、災害時は貴重な食料に。万が一冷蔵庫が使えなくなっても安心。そのうちと先延ばしせずに、次回スーパーに行った際に、買い足ししよう。

もちろん昔のように、数年分まで用意する必要はない。最低3パックを目安にしてみてはいかが? 

備えあれば憂いなし。自分に余裕があれば、人にもやさしくなれる。ご近所に味噌を分けられるくらいの余裕があれば最高だ。

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