江戸川柳研究の第一人者である清博美さんの著書『江戸川柳で読み解く 塩・味噌・醤油』が発刊されました。本書では、当時の庶民の生活を詠んだ江戸川柳をもとに、製塩や味噌・醤油の醸造、料理方法、生活用具など江戸時代の豊かな食文化や暮らしを、貴重な図版とともに紹介しています。
また、「青菜に塩」「塩梅」「味噌を付ける」「味噌役人」など、塩や味噌から派生したことばや故事についても、江戸川柳を例に挙げてわかりやすく解説しています。 古くから人々の生活を支えてきた塩・味噌・醤油。川柳をはじめ、ことわざや慣用句などに数多く登場するのは、それだけ人々にとって欠かせないものであった証拠でしょう。江戸の暮らしを想像しながら、タイムスリップした気分で楽しむのもおすすめです。
上記の絵は、味噌つき唄などを歌いながら、臼を囲み大豆を潰している様子です。
1300年以上の歴史がある味噌ですが、江戸時代は商人文化が盛んになり、すでに今と同じくらい無くてはならない存在であったようです。それまで味噌は自家醸造が当たり前でしたが、人口が急増する大都市では商品の需要が大きく伸びました。また、料亭が増え、味噌料理が洗練されていったのもこの時代。
味噌は、日本人にとって昔から貴重な調味料であり、栄養源であり、生きる糧でもありました。と同時に、長期保存ができるため、非常時の蓄えである「備荒食」として活用されていたことも誇るべき点です。
味噌にまつわる江戸川柳の例
◆町鑑ミ四方の辺りが江戸の味噌
江戸新和泉町(現在の日本橋人形町辺り)で味噌と酒を売る商家として有名だったのが「四方九兵衛」。赤味噌は“四方の赤”、銘酒は“四方の瀧水”などと呼ばれ、江戸中に知られていたそうです。
◆大名も柚味噌に釜の蓋を取リ
柚味噌は、柚子の皮を刻んで、柚子の汁をすり混ぜた味噌のこと。また柚子をくり抜いて器に用い、その中に味噌、酒、ごま、くるみ、栗などを入れ、炭火で焼く柚味噌(ゆうみそ)という料理もあったそうです。さすがの大名も待ちきれず、自らお釜の蓋を開けてご飯を食べ始めてしまうほどおいしかったようです。
◆米みそをさい布に入レて御国入
「菜布」は、旅などの時に銭・米などを入れて持ち歩く袋のこと。殿様が参勤交代で国元へ帰る時、江戸の米味噌を持参したという句です。江戸の米味噌を気に入って、持ち帰っていたようです。
「塩も味噌も醤油も、スーパーマーケットなどで手軽に入手できる時代となりました。各地の味噌を収めた味噌桶が所狭しと並べられ売られていた昔の味噌屋の店内を思い出すと隔世の感を禁じ得ませんが、一方において、味噌、醤油は世界的な調味料となりました。これからも日本人は飽くなき探求心で、さまざまな特徴を持つ世界各地の調味料・嗜好品を自家薬籠中の物とし、さらにそれが新しい日本語としても定着して使われ続けていくことでしょう」と著者の清博美さん。
『江戸川柳で読み解く 塩・味噌・醤油』
著者/清博美、発行/三樹書房
【清博美さんプロフィール】1934年生まれ、東京都出身。川柳雑俳研究会代表、江戸川柳研究会会長。『江戸川柳文句取辞典』(三樹書房)、『川柳心中考』(太平書房)など編・著書多数。
文/秋山昭代