茨城県日立市にある老舗の味噌蔵・内山味噌店は、伝統製法でつくられる味噌をベースに、斬新なアイデアで生まれた多彩な商品をラインナップ。また、発酵技術を生かした食パンやフルーツサンド専門店のオープンなど、時代のニーズの変化に合わせてさまざまな新事業を展開し、発酵食ファンを楽しませてくれています。代表取締役の内山庄栄さんにお話を伺いました。
聞き手/藤本智子
【内山庄栄さんプロフィール】
1965年生まれ、茨城県出身。大学卒業後、証券会社に就職。1992年家業である有限会社内山味噌店に入社し、2003年6代目に就任。みそ製造技能士1級。
内山味噌店について教えてください。
茨城県日立市で漁業を生業としていた庄之丞翁という人物が、1872年に味噌と醤油の醸造を開始したのが当店の始まりです。頑固で一本気な性格であったようで、当時貴重であった米をふんだんに使い、さらには「古式大豆玉麹造り」という複雑な製法で味噌をつくっていました。
当時の一般家庭でつくられる味噌とは一線を画したもので、ハレの日やお客様をもてなすための“ごちそう”としての味噌だったようです。当店は、“効率を度外視しても良い味噌をつくろう”という創業者の熱い情熱を受け継いでいます。
どんなお仕事をされていますか?
実は以前は証券会社に勤めていて、もともと家業を継ぐ予定はありませんでした。そのため入社してからは、製造はもちろんのこと、あらゆる仕事を経験。現在は製造を中心に、商品開発から広報まで幅広くこなしています。
入社当時、味噌の出荷量は減少傾向にある時代でしたが、味噌は日本農林規格がないため自由な発想で味噌がつくれること(※)、また、微生物が織り成すサイエンスの奥深さにも魅力を感じました。
日々、さまざまなものからインスピレーションを受け、麹発酵の技術が応用できないかなどを常に考え、新商品の開発に生かしています。そんなアイデアで生まれたプリンやラスク、食パンなどが特に好評で、新商品を生み出すのはとても楽しい時間です。
※現在は、日本農林規格が制定されています。
創業から受け継ぐ「古式大豆玉麹造り」とは
当店が創業した明治初期は、甘味や旨味といった概念が浸透しておらず、出汁は一部の特権階級しか味わえない時代でした。そのため出汁を加えなくても十分においしく食べられるよう、大豆の旨味を最大限引き出すために考案された製法が「古式大豆玉麹造り」です。
「古式大豆玉麹造り」は、古くから地元に伝わる製法で、米麹に大豆の一部を大豆麹にしてブレンドするのが最大の特徴です。米麹だけでなく、大豆麹の酵素の働きも加わり、大豆に直接働き分解が促されるため、より旨味成分が多く生成されるのです。
従来の米味噌に比べ、豆麹の製造工程も加わるため、非常に手間と時間がかかりますが、今でもその製法を大切に受け継いでいます。
味噌づくりのこだわりを教えてください。
現在販売している味噌は、「古式大豆玉麹造り」で製造した「内山みそ」と「みずき家宝みそ」の2種類です。
「内山みそ」は、国産の米と大豆を使用し、比較的熟成期間が短く淡赤色の味噌で、創業以来変わらないすっきりとした味わいです。「みずき家宝みそ」は、アイガモ農法で生産された茨城県産米と、青森県産の大豆を使用したこだわりの味噌です。米麹を贅沢に使用し、旨味と甘味のバランスがよい味わいが特徴です。
製法は創業当時のままですが、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格「ISO 22000」を取得するなど、現代の基準に合わせ衛生管理を徹底しています。
また、日立市には、阿武隈山脈より流れ出るミネラル豊富な良質の地下水源があり「平成の名水百選」にも選ばれるなど、味噌づくりに恵まれた場所です。良質な水は、酵母の働きを活性化し、風味豊かな味わいを醸し出してくれます。
読者に一言お願いします。
当店は、地元茨城、そして日本をより豊かにするため、伝統と革新が融合した事業を行うため、日々邁進しています。発酵食が持つ潜在的な魅力を創造し、お客様が健康と豊かさを実感できる商品やサービスを、これからも提供していきたいと考えています。
コロナ渦だからこそ、もっと味噌をはじめとした発酵食品の魅力を伝える意義を感じています。毎日の食卓に“発酵の新たな食体験”を取り入れていただき、現代のライフスタイルに合った発酵の楽しみ方を提案できればと思います。
また、今年、当社が創業150年を迎えるにあたり、直営店「みずきの庄」をリニューアルし、「蔵工房うち山」として新たにスタートしました。ぜひ店舗にもお越しください。