Koji worksを主宰するグレイドン尚子さん「イギリスで麹や味噌の魅力を伝えたい」

イギリス在住のグレイドン尚子さんは、自家製の麹を使用した手作り味噌のワークショップや情報発信などを行う「Koji works」を主宰しています。麹や味噌への思い、海外ならではの苦労や工夫などを伺いました。

聞き手/秋山昭代

【グレイドン尚子さんプロフィール】
1973年東京都出身、2002年よりイギリス在住。大学卒業後、金融やデザイン事務所に勤務。食べ物から意識し身体を整えるデザイナーに感化されつつも、真剣に食に目を向ける機会が増えたのは出産してから。現在、イギリスのヘルスケアで働く傍ら「Koji works」を主宰、「手前味噌の良さ」を広めるべく活動中。2児の母。

イギリスで麹や味噌を作り始めた経緯は?

初めて味噌を仕込んだのは、夫の仕事の都合で日本駐在時に長女が生まれた2007年頃。味噌を作ろうと思ったきっかけは、当時、食品の産地偽装問題が続いたこともあり、食の安心安全について考えるようになったからです。手作り味噌の手軽さとおいしさに感激し、以来、毎年味噌を仕込むのが恒例になりました。

そんな中、2011年にイギリスへ本帰国することに。しかし、イギリスで麹を入手することが難しかったため、自分で作ってみようと思い立ちました。“無ければ作る”が海外駐在生活での基本です。

帰国した際に麹屋さんに勉強に行ったり、海外で麹を作っている方に教えてもらったり、研究を重ねる日々。今では、発酵機を用いて、安定した品質の麹を作れるようになりました。

また、大豆も手軽に手に入れることができないため、大豆の代わりにひよこ豆やえんどう豆、そら豆など、さまざまな豆で味噌を作っています。

※大豆不使用の味噌は、「味噌風調味料」となりますが、本文では「味噌」と表現しています。

「Koji works」の活動について教えてください。

2012年頃から友人たちと味噌作りをしていましたが、2020年に本格的に「Koji works」としての活動をスタート。「Koji works」は、“麹製作所”“味噌を含めた麹商品が身体に作用する”“麹の仕掛け”など、いろんな意味合いを込めています。

始めた当初は、日本人の友人や知人を集めての開催でしたが、最近では、イギリス人の参加者もかなり増えました。今イギリスでは、発酵食品のキムチやコンブチャが大人気。また、日本食ブームもあってか、味噌への関心が高まっていると実感しています。

味噌に馴染みのないイギリス人に説明するときは、特に味噌の栄養面での良さや使い方を強調してお伝えするように心掛けています。また、日本人には、意外と知られていない味噌の歴史やうんちくなどを交えてお伝えするなど、参加者によって講座の内容を調整しています。

麹作りや材料の手配、資料作成など、運営には大変な面もありますが、リピートしてくださる方も多く、やりがいを感じています。

麹や味噌の魅力は?

私が思う麹や味噌の魅力は、3つあります。

1つ目は、愛情を込めて作りお世話をするので、まるでペットを飼っているかのように愛着が芽生えてきます。発酵食品全般に言えることですが、味や見た目、香りに日々変化があるので、まるで家庭の中にある小宇宙のようで飽きることがありません。

2つ目は、味噌や麹を使った調味料は、料理の時短に役立ちます。身体にもいいし、どんな食材も最小の労力でおいしくすることが可能なので、ワーキングマザーにとっても、とてもありがたい魅力的な食品だと思います。

3つ目は、いろいろな可能性を秘めていることでしょうか。海外では、日本人には思い浮かばないような味噌や麹の使い方をしているシェフがたくさんいます。寿司やラーメンが外国人に人気で市民権を得たように、麹や味噌が海外でどのように進化するのか、とても興味深いです。

そして、日本人なら誰しも味噌汁を飲むと心が落ち着くと思いますが、“味噌の香り”がとても大切だと思います。私自身も、幼い頃に食べたお味噌汁はもちろんですが、祖父母の家の納屋にしみついた味噌の香りをよく覚えています。手作り味噌は、記憶を呼び覚ますタイムマシンのような、そんな不思議な力があると思います。

今後の展開、伝えたいことは?

イギリスでは、生活習慣病が増加していることもあり、塩分の高い味噌が敬遠されがちな面も否めません。味噌の栄養価の高さや効能などをお伝えすることはもちろん、イギリスの食文化に合った、麹や味噌の楽しみ方もお伝えしていきたいと考えています。

イギリスに住んでいると、自ら情報を求めないと日本の食文化を知る機会がほとんどありません。先日、娘たちが通う日本語補修校で大豆についての授業があったため、手作りの味噌や醤油、麹などを授業で役立ててもらったことがありました。

「Koji works」の活動が、海外で暮らす子どもたちや外国人の方にも、日本の食文化や手作り味噌の楽しさ、食べたもので身体が作られていることなどを知るきっかけになってくれたら嬉しいです。

また、今後は、「みそまるマスター」として、みそまるワークショップも積極的に開催していく予定です。イギリスでは、パンとスープだけで食事を済ませることも多く、スープには馴染みが深いです。手軽でいてかわいい「みそまる」は、人気が出ると思っています。

【Koji works】
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