大豆博士・国分牧衛さん「先人の知恵の結晶。そして、未知なる可能性を秘めた大豆」

小学校3年生の国語教科書内『すがたをかえる大豆』(光村図書出版)や『ダイズの絵本』(農山漁村文化協会)等の著者でもあり、長年大豆研究に携わってきた国分牧衛さんにお話を伺いました。

聞き手/秋山昭代

【国分牧衛さんプロフィール】
1950年生まれ、岩手県出身。農学博士、東北大学名誉教授。東北大学卒業後、農林水産省の研究所(東北農業試験場、農業研究センター等)勤務を経て、2000~2015年東北大学教授。現在は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究主幹として農林水産業に関する国際共同研究の推進業務に従事。「日本作物学会賞」「日本作物学会論文賞」「日本農学賞」等、受賞歴多数。趣味はテニス、ジョギングや70歳で始めたフルート。

大豆の研究を始めたきっかけは?

私の名前「牧衛(まきえ)」には、「牧場を衛(まも)る」という意味が込められていて、牧場を営んでいた祖父が名付けてくれました。牧場は兄が継いだため、東北大学の農学部に進学し、家業の役に立てばと牧草について研究することにしました。

大学卒業後、農林水産省の研究所に就職しましたが、配属先はイネの研究室。そして、数年後、大豆の研究室へ移動しました。もともとは牧草研究を希望していたのですが、結果、イネや豆が専門分野となりました。

とはいえ、家畜の飼料として大豆が使われていますし、大きな視点で考えれば、原点である牧草にも関連しています。かれこれ40年ほど経ちますが、やりがいを持って仕事を続けることができています。

研究テーマについて教えてください。

私たちの研究テーマは、大豆の栽培技術を改良し、単位面積当たりの収量の向上等によって、農家を豊かにすることでした。

日本食に欠かせない大豆ですが、国内の食料自給率はわずか数%で、大半を輸入に頼っています。その理由の一つとして、収益を上げにくい作物であることが挙げられます。また、タンパク質や脂質を多く含む豆類は、炭水化物が主成分である穀類よりも、成長に50~60%程度多くのエネルギーを必要とします。

豆類は、根のコブのような部分にいる根粒菌と共生しています。根粒菌は大気中の窒素をアンモニアに変換し、大豆に供給する働きをしています。

植物の生育に欠かせない「窒素肥料」は、実は、この豆類の特性が知られてから誕生したのです。しかし、窒素が多すぎると根粒菌がうまく働かないなど、豆類と根粒菌の関係はデリケート。人為的にコントロールすることは、なかなか難しいのです。他にも光合成や栽培環境など、さまざまな要件が複雑に絡み合っています。

しかし、この性質をうまく利用できれば、少ない肥料で安定的に収量を増やすことができます。実現化にはまだまだ時間がかかりそうですが、研究の道筋を作ることができました。

現在のお仕事について教えてください。

科学技術振興機構の研究主幹として、国際共同研究のコーディネーターを務めています。公募しているプロジェクトの進行管理や評価のほか、途上国に対してJICA(国際協力機構)と共同で技術援助をすることが主な仕事です。

以前は、アフリカや東南アジア、中南米などの現地に直接出向くことも多かったのですが、コロナ禍の現在は、オンラインでの仕事が大半です。その他、専門書や子ども向け書籍の執筆も積極的に行っています。

小学校の国語の教科書(光村図書出版)に『すがたをかえる大豆』という文章を書きました。教科書は、おおむね4年ごとに改訂されますが、ありがたいことに、この文章は平成17年度から現在も掲載されています。多くの小学生の皆さんが読んでくれたのではと思います。

大豆の魅力は?

“植物”としての大豆(豆類)の魅力は、根粒菌と共生するという、他の植物にはない特徴を持つこと。窒素肥料を低減し、環境への負荷を減らすなど、持続可能な農業という点でも、さまざまな可能性を秘めていると思います。

“食品”としての大豆の魅力は、まず、良質なタンパク質や脂質のほか、イソフラボンやレチシンなどの健康に良い成分を多く含んでいること。近年、さまざまな研究が進んでおり、生活習慣病や骨粗鬆症等の予防効果も期待できると言われています。

そして、大豆は、味噌や醤油、豆腐、納豆など、さまざまな食品に加工することができ、私たちの食卓を支えてくれています。

大豆は、「おいしい・栄養価が高い・汎用性が高い」三拍子揃った素晴らしい食品だと思います。まさに、先人の知恵の結晶とも言えるでしょう。

味噌の思い出を教えてください。

岩手県出身なので、東北ならではの長期熟成した味噌に馴染みがあります。

特に好きだったのは、大根の味噌漬けです。輪切りにした大根を、味噌桶の底に残った味噌に漬け込んだだけなのですが、格別でした。母がよくおにぎりに入れてくれて、遠足やおやつの時に食べたのを今でも懐かしく思います。

読者に一言お願いします。

食べ物は、私たちの身体の素になり、排出後もカタチを変えながら自然の中で循環しています。未来を担う子どもたちに、農業や食べ物についてもっと関心を持ってもらえるよう、これからも書籍や講演会を通し、伝えていきたいと考えています。

毎日、1時間ほどのジョギングを日課にしているのですが、公園で出会う子どもたちに「大豆クイズ」を出すこともあります。

また、これまでの集大成として“豆類辞典”のような書籍を執筆中です。私の専門は「植物としての大豆」ですので、生産や加工、大豆の利用など、各分野の専門家にも原稿を依頼しています。楽しみにしていてください。

『ダイズの絵本』(そだててあそぼう 9)
発行/農山漁村文化協会、著者/国分牧衛 編・上野直大 絵

『まるごと探究!世界の作物ダイズの大百科』
発行/農山漁村文化協会、著者/国分牧衛 編

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