日本人は戦後、食生活の欧米化で肉や乳製品など、高脂肪分を多く摂るようになり、食物繊維の摂取量が少なくなりました。ここまで急激に食生活が変化した国は日本以外にはないと思いますが、結果、大腸がんや乳がん、前立腺がん等の西欧的ながんや、その他の生活習慣病が増加しました。飲酒、喫煙も影響しているでしょう。
食生活ががんの発症に大きく関連していることを物語る例として、1900年代のアメリカの事例があります。この当時、一番多いがんは「胃がん」でしたが、冷蔵庫が発明され食塩の摂取量が減少し、生野菜を食べる習慣が定着したことも影響し、減少していきました。しかし、一方で数十年後には、大腸がんや乳がん、前立腺がんなどのがんが増加したのです。
がんの増加を防ごうと1977年に発表された「アメリカ合衆国上院栄養問題特別委員会報告書(通称:マクガバンレポート)」では、伝統的な和食が推奨されました。以降、アメリカでは1960年代の和食のよさが盛んに啓蒙され、一部のがんは減少傾向にあります。沖縄県(男性)の事例を見ると、1985年の平均寿命は第1位だったのが、2015年には第36位に転落。これは、米国型食習慣が流入し、結果、動脈硬化症や糖尿病、脂質異常症などが増えたことが影響しているでしょう。
現在、日本の男性の平均寿命は 81.41 年、女性の平均寿命は87.45 年と世界トップクラスです。しかし、日本人の平均寿命が長いのは、粗食を食べてきた元気なお年寄りが、未だ御存命であるからだと考えています。そのため沖縄のような平均寿命の転落は、近い将来、他県でも起こりうると危惧しています。
参考:厚生労働省「都道府県別生命表」「令和元年簡易生命表」
元気に長生きするためには、欧米型の食事を控え、「ごはんと味噌汁」を中心とした食生活に戻すこと。それが健康への近道です。他国が和食のよさを認識しているのにもかかわらず、日本人があまり意識していないことを、非常にもったいなく思います。
私は、これまで約30年にわたり味噌の効能を実証してきましたが、これからますます「味噌力」が解明されていくでしょう。今、一番興味をもっているのは、現在日本で増加している「すい臓がん」についての研究です。すい臓がんが、味噌によって減少するかを明らかにしていきたいと考えています。
文/渡邊敦光