みそは、栄養価に優れ消化吸収が良いため、古くから産後の疲労回復食として重宝されてきた。しかし、それは、人間だけではなく、牛にも活用されている。
現在では、みそを原料に含む飼料も商品化されているが、出産後の牛にみそ汁を与える習慣は、民間療法的に現在でも多くの畜産農家で行われている。
米沢市で9 代にわたり農家を営み、100 頭ほどの肉牛を育てている「米沢牛いとう牧場」もその一つ。出産後の牛には、必ずみそ汁を飲ませているという。同牧場の伊藤倫子さんに話を聞いた。
母牛は生涯にわたり何度も出産を経験するが、みそ汁は出産後だけに食べられるご褒美のような存在。母牛にみそ汁を与えると、口をつけてズズーッと一気に飲み干す。まれにみそ汁を好まない牛もいるそうだが、ほとんどがおいしそうに飲むという。
伊藤家の牛用のみそ汁は、一食あたり約400~500gのみそを約5リットルのお湯に溶かし、だしや具材は入れず「みそ湯」で与える。みそは市販されている米みそを使用している。
塩分は大丈夫なのかと心配になるが、牛にもある程度の塩分は必要で、普段から塩をいつでも舐められるよう「鉱塩」という塩のかたまりを近くに置いている。さらにお湯も推奨されているため、みそ汁は最適なのだという。
みそ汁を与えるのは、産後の栄養補給が一番だが、実は、もう一つ役割がある。分娩後の牛は母子ともに興奮状態にあることがあり、500kg近くある母牛が暴れてしまうと、人間も牛も怪我をする可能性があり危険だ。そこでみそ汁の出番だ。牛は、みそ汁が運ばれてくるとよい香りにそそられ、関心がみそ汁へ向くため、その瞬間に母牛を捕獲できるのだ。
「米沢牛の認定条件の中には、出産経験のないメス牛という項目があります。わが家では、米沢牛として育てるための牛と出産してもらうための牛とそれぞれ飼育していて、みそ汁は母牛だけに飲ませている特別なものです。米沢牛として育てる牛たちには発酵した豆や米を与えています。牛を大事にしつつ、皆さんに喜んでもらえる米沢牛に育てることが私たちの仕事です。ちなみに、米沢牛はすき焼きで食べるのが一番おすすめです。割り下に、隠し味でみそを入れるとおいしいです」と伊藤さん。
また、全国的に見ると、なかなか妊娠しない牛にみそのお灸をすることもあるという。意外なところでみそが力を発揮していることに驚く。